「映画フレームの中で展開される、「ザ・演劇」」焼肉ドラゴン Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
映画フレームの中で展開される、「ザ・演劇」
昭和の高度経済成長期にあった1970年代の日本における在日コリアンの一家を主人公にしたドラマ。第16回読売演劇大賞の"大賞"と"最優秀作品賞"、また第8回朝日舞台芸術賞の"グランプリ"を受賞している名作戯曲を原作にしているからなのか、映画フレームの中で展開される、[ザ・演劇]。
原作・脚本の鄭義信自身による初メガホンということで、やっぱり餅屋は餅屋か。オリジナル舞台が好きな人にはいいかもしれないが、家族が揃ってこちら(カメラ)側を見るなど、意図して舞台的なフレーミングが多用されているので、"映画"的ではない。今どきのCGを使って、再開発の大阪の街並みや上空を飛ぶ旅客機をリアルに再現することはできても、あらゆるシーンで演劇臭さがぬぐい切れない。
たとえば、今どきの高精細カメラはぜんぶを見せてしまうので、どう見ても"作りモノ"だと分かってしまう、"セットの安物感"。家はボロボロの掘っ立て小屋というより、小ぎれいに汚されたコントの大道具である。
またオープニングとエンディングでサクラの花びらが舞い散るが、他のシーンで屋根の上や街を俯瞰するカメラワークがありながら、これだけの花びらを降らせる大きな桜の木や、桜並木が写っていない。突然、空からサクラが舞い散る…コレを、"脳内補完しろ"というのが、[ザ・演劇]なのである。
セットの質感は別として、細かい仕込みは時代考証バッチリである。大阪万博のアメリカ館の話や"太陽の塔"、劇中で使われる美空ひばりの「真っ赤な太陽」(1967)や青江三奈「伊勢佐木町ブルース」(1968)などの楽曲。"チューリップハット"など登場人物たちのファッションは、一周回ってカッコいい。
ちゃんと映画として作り直してほしかった…映画だからできることと言えば、大阪万博はみやげ話ではなく、お金をかけてCG再現したら、大絶賛されただろう。「ALWAYS」の象徴である"東京タワー"のように。
とはいえ、いい話である。素晴らしい演技である。日韓の映画俳優による見事な演技は見ごたえたっぷり。"焼肉ドラゴン"の父母を演じるキム・サンホとイ・ジョンウンの日本語と韓国語のハイブリッドなセリフ回しは、鄭義信監督の脚本の狙いがハマっている。美人3姉妹に真木よう子、井上真央、桜庭ななみを揃えたのも鄭義信初メガホンの賜物。
鄭義信監督の脚本作品といえば、「月はどっちに出ている」(1993・キネマ旬報ベストテン第1位)、「愛を乞うひと」(1998・キネマ旬報ベストテン第2位)、「血と骨」(2004・キネマ旬報ベストテン第2位)などなど。映画マニアのココロをつかむのが上手いだけに、本作も高評価が予想されるが、この[ザ・演劇]をどのように受け入れるのだろうか。
昭和の高度経済成長期の話といえば、「ALWAYS 三丁目の夕日シリーズ」(2005/2007/2012)だが、本作は「ALWAYS」のアンサーソング(返歌)的になっている。"東京"に対して"大阪"。"日本人一家"に対して"在日コリアン一家"。同じ時代背景に中で起きていた立場の違いと社会的な差別を描きつつも、本格的な戦後復興にまい進する空気感は、漠然とした未来の明るさを感じさせる。いい話である。
(2018/6/22/ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ)