「孤独と愛着と哀切と」彼が愛したケーキ職人 Jolandaさんの映画レビュー(感想・評価)
孤独と愛着と哀切と
まず、DVDのジャケットに裏切られました。出ました、装丁詐欺(笑) でも、良い裏切られ方です。
もうちょっと、ハートフルで明るい、「ザ・再生の物語」かと思ってたんです。甘かったです。所詮わたしも、花見で酒飲みゃあ昔の憂さなど忘れられる、明るい島国の人間だった訳です(そこまで言うか)。イスラエルを舞台にユダヤ人とドイツ人が繰り広げる話でした。そうでした。
全編を通して、物悲しい。「ともに喪失した者たちの孤独な共鳴」ということで言うと、古い映画だが「21グラム」を思い出した(ナオミ・ワッツ、ペネチオ・デル・トロ、ショーン・ペンが出てる重い映画)。
トーマスの孤独とヒロイン(雰囲気がシャルロット・ゲンズブール風ですね)の喪失に、ピアノの物悲しい旋律が寄り添う。
舞台が、たとえばパリやロンドンだったら――つまり相手がフランス人とかイギリス人だったら話は全然変わってくるのだけど、何せ、ユダヤ人。身内もユダヤ人。(ところで、オーレンのお母さんって、何か「気付いて」そうよね。母親の勘かしら)
トーマスがヒロインの息子イタイとクッキーにアイシングをするシーンの和やかさには、涙腺がゆるんでしまった(つーかほぼ全編、うるうるしてたんだけど)。
正体がバレて、ヒロイン本人でもなくオーレンの兄弟(ヒロインの義兄ってことは、そーだよね)から絶縁を言い渡され、パン種(だね)か何かを前に涙するトーマスが不憫で、、自業自得と言う人ももちろん多いと思うけど。
何というか、サイコパスと"子供っぽい"って、紙一重なのかなと思った。ハタから見た場合に。
確かに、「かつての不倫相手」がやってきて、ヒロインに自らの素性を明かさず深い仲になっちゃあいけないんだけど、たぶん、本人、全く悪気がない。
生前のオーレンが語ったやり方でヒロインにキスしてたところを見ると…同一視というか、喪失のショックから彼に成り代わろうとしている感じはしますね。
料理もだけど、特にお菓子作る人って、愛情深そうなイメージありますね。作って、全部自分で食べる人ってなかなかいないから。あげる人のことを、いつも考えてそう。
観てたら久しぶりにクッキー焼きたくなった。焼いてる最中の、あの匂いが充満してる時が幸せなのよね。