「彼女のほほえみの訳が腑に落ちないけど。」彼が愛したケーキ職人 だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
彼女のほほえみの訳が腑に落ちないけど。
ベルリンでカフェを営むトーマスのもとに、イスラエル人の妻子ありのビジネスマン・オーレンが現れ、やがて恋人になる。月一の逢瀬を楽しんだ一年後、オーレンは連絡が取れなくなり、消息を調べると事故で死亡とのこと。
一方夫に事故死されたオーレンの妻・アナトは自分のカフェを再開し、オーレンの恋人であったことを隠してイスラエルにやってきたトーマスを、カフェに雇う。
日に日に距離を縮めるアナトとトーマスだが…っていうあらすじでした。
概ね切なく見られたのですが、いくつか分からないところがありました。
①カフェのキッチンでトーマスといたしたあと、明るい自室の部屋で笑っていたアナトの感情
②オーレンの通っていたプールのロッカーのコンドームの意味(ベタにプール=発展場との解釈でおk?)
③ラストでベルリンへ行ったアナトは、トーマスが自分の店から出てくるところを見て、満足げにほほ笑んだけれども、彼女のベルリン行きが求めていたものって何?
②は別として、①と③に明確な解答はないと思うんですけれどもね、私の少ない経験からは読み下せなくって。
全体を通じて、トーマスの気持ちになってみました。
妻帯者との不倫の善悪とかは全然忘れて、ただ、「でーあぁーってしまぁーあったーふーたりーーー」(『優しい雨』by小泉今日子で歌ってください※)の、避けがたいフォーリンラブの残骸の話として読みました。
んで、あらすじかどなたかの評で、トーマスは次第にオーレンの身代わりとして生きようとしているとあって、それに引きずられてみたせいもありますが、多分アナトと一線を越えるところがクライマックスになるんだろうなと思っていました。
そこのところは、多くの人が読める展開なんで、だから何っていうわけではないのですが、それをどう受け止めるか、どう描くかを見ていたのです。
トーマスの心情は、オーレンが音信不通→つらい、心配→消息を調べると死んだって…→オーレンの死の真相が知りたい、少しでも彼の近くにいたい→イスラエルへGO→妻に近づけば真相を知れるかも…
ってとこかなって。
それが、どうねじれたかまではわからないけど、彼の水着を着て、ジョグウエアを着て、オーレンの性癖をたどる旅をした。彼を思って時々むらむらだってしたでしょう。そして孤独な旅人生活で、唯一心開けそうなアナトと一緒にいる時間が増えて、絶対オーレンのことも思い出すんだけど、人肌恋しく触れ合いに応じてしまった?ってところなのかなって。全くの私の妄想ですがね。
一応トーマスには、こうかなっていう仮説がつけられるんだけどさ。
アナトは、わかんないのよ。
時系列でまとめると、オーレンに離婚?を打診される(好きな人がいるからベルリンへ移住したい)→混乱してオーレンを一旦追い出すとオーレン事故死→アナト初登場シーンの手続き(死別って手続きしてた)→カフェ再開→トーマス雇う→クッキーうまい→オーレンの好きな人が気になるけど怖くて留守電聞けない→ベルリンのレシートで同じの幾つもある、あ、お土産のクッキーの店だ→店のことを調べる→トーマスのケーキでカフェ繁盛→ディナーも誘って→ついに店のキッチンでアナトからセックス誘ってしまった→大口予約の日に宗教的によくないレッテルをお店に貼られる→トーマスの買い物リストとオーレンの遺品のリストの字が同じことに気づき、オーレンとトーマスが恋人だったことを知る→(トーマスを失う)→ベルリンへ行きトーマスを見つけてほほ笑んでThe end
なんですよ。
オーレンの恋人とは知らずにトーマスに惹かれるっているのは、よくわかるのよ。だけど、ベルリンに戻ったトーマスを見つけて安堵したわけが分からないのさ。
遺品の買い物リストを見て、トーマスって連呼してる留守電聞いたけどオーレンの恋人はトーマスだっていう確信なかったのかな?ドイツ語分からんかったら、留守電の意味わからんかもだしねえ。
あるいは、義兄に殺された?って心配してたから生きててほっとした?それはないわな。
あるいは、オーレンの恋人がトーマスで、そのトーマスがちゃんと生きていてくれたことがうれしかったのかな。オーレンがトーマスの中にいるみたいに思えて。
最後が腑に落とせないけれども、しんみりしみるいい映画でした。
イスラエルの習慣、文化も興味深かったです。
異教徒がオーブンを使うのが食物規定に触れるっての、全然意味わからんかった。肉と乳製品を皿もシンクも分けるっての初めて聞きましたわ。
義兄さんはオーレンの兄なのかな?はっきりとは書かれなかったけれども、トーマスに「母が作った安息日の食事」ってゆって持ってきてたから、アナトの母でなく、映画に出てきたオーレンの母と考えるのが自然よね。
義兄さんの異教徒排斥感(ドイツ人が嫌いなだけかもだけど)はやだなーと思いましたが。
そして、オーレンに帰りのチケットをいきなり突き付けたのは、コーシェルに違反してるっていう張り紙の対策なんかな…
※小泉今日子『優しい雨』は避けがたく出会ってしまった二人が、背徳感をかみしめながら不倫をするときにぴったりのテーマ曲として、わたしの脳内再生頻度が高い音楽です。後ろ暗さと疾走感と悪事の蜜の味を前提に、雨に濡れながら見つめあって抱き合う二人をカメラが360度回って撮るっていう画が浮かびます。不倫に酔ってる感じもあるイメージなので、揶揄的ニュアンスを含みます。