「タイの貧富の格差と受験戦争」バッド・ジーニアス 危険な天才たち 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
タイの貧富の格差と受験戦争
タイ映画は先日観た「ポップ・アイ」が初めてだ。主役の中年男を演じていたタネート・ワラークンヌクロが本作品にも出演していて、何故か少しホッとした。懐の深い父親の役を好演している。
物語はチンピラが成り上がるヤクザ映画みたいで、小悪事を繰り返しながら徐々にエスカレートしていき、最終的に大団円となる。優秀な学生たちでも人生経験は不十分で、視野の狭さから安易で刹那的な選択をしてしまうが、そのアイデアとチャレンジ精神は瞠目に値する。
カンニングのシーンはスパイ映画の秘密作戦を彷彿とさせるほど緊迫感がある。ミッション・インポッシブルなどでお馴染みの作戦中のアクシデントも盛り込まれ、小悪党のはずの学生たちにいつしか感情移入してハラハラしてしまう。
品格を重視するという教育者の言葉とは裏腹に、タイでは学力偏重の実態があることが知れる。加えて貧富の格差もある。学生たちのカンニングの背景には、社会の歪んだ構造があるのだ。経済的に発展途上のタイでは、かつての日本の高度成長時代の受験戦争のようなことが起きており、タイの学生たちは厳しい競争にさらされている。
朱に交われば赤くなるというが、交わるだけでは赤くならない。一緒になって何かをしでかすことで赤くなるのだ。しかし悪い誘いは断るのが難しい。朱に染まらないでいるのは、染まるよりもずっと大きな勇気を必要とする。
片寄った価値観が交錯する映画だが、主人公の父親の寛容で落ち着いた人格が作品全体の精神的な受け皿となって、物語に安定感をもたらしている。エピローグもしっかりしていて、なかなかよくできた作品だと思う。
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