「雲海に消えていくヒューゴの姿に・・・あっ!と思うはず。」アリータ バトル・エンジェル Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
雲海に消えていくヒューゴの姿に・・・あっ!と思うはず。
恐ろしいくらい生身を感じさせる"CG人形"(サイボーグ)が活躍する本作は、ジェームス・キャメロンによる"アバター(avatar)プロジェクト"のひとつなんだと再確認させられる。アバター(avatar) とは、仮想世界で自分(ユーザー)の分身となるキャラクターのことを指す。
実際、キャメロンは「アバター」(2009)製作より先に、コンセプト3部作を言及していた。今回、監督は譲ったものの、脚本を始め、プロデューサーとして隅々まで関与した、待ちに待った新作である。
日本の漫画「銃夢」を原作としていることは、世界の映画トレンドからみると、もはや珍しいことではない。むしろ日本の特撮ファンであるギレルモ・デル・トロ(「シェイプ・オブ・ウォーター」の監督)が、キャメロンに原作を紹介したというエピソードに妙に納得する。
実写の俳優とCG(Comuputer Graphic)を融合するCGI(Computer Generated Imagery)技術を、さらに進化させたモーションキャプチャーが特徴。撮影時のアリータは女優ローサ・サラザールが演じているのだが、演技の動きにCGを被せることにより、主人公の"アリータ"がスクリーンの中で人間のように存在する。
特に"アリータの表情"は、フェイシャルキャプチャーを使うことにより、実に生々しい。こんなCGキャラクターは初めてだ。
キャメロンらしいのは、より人間らしく見せるために、"喜怒哀楽"と"人間的な欲求"を脚本に用意したことである。
作品冒頭、アリータはベッドで眠りから覚める。あくびをする彼女は、"睡眠欲"を持っている。ベッド脇に用意された服に気付き、階下におりる。ファッションは自身を着飾る"性欲(エロティシズム)"の一種である。そして、そこで"お腹がすいた"と言い、初めてオレンジを皮ごとかじる(食欲)。
野良犬をカワイイと感じ、初めて出逢った青年に不思議なインスピレーションを受ける(親愛)。また理不尽なことに怒り、涙を流したり、他人の夢に共感する。
キャメロンはCGオブジェクトに"ココロ"を埋め込んだ。そして観客はいつのまにか、アリータがCGであることを忘れてしまう。
世界興収の歴代1・2位(「アバター」と「タイタニック」)は、いずれもジェームズ・キャメロン監督作品である。
しかしキャメロンを語るのにいちばん分かりやすい"勲章"は、"アカデミー賞 視覚効果賞"だろう。
作品賞同様、毎年1作品しか選ばれないが、その名の通り、革新的な映像技術を評価するものである。
視覚効果賞の受賞は、「エイリアン2」(第59回/1987年)、「アビス」(第62回/1990年)、「ターミネーター2」(第64回/1992年)、「タイタニック」(第70回/1998年)、そして「アバター」(第82回/2010年)。キャメロンの代表作のほとんどが、その栄冠を獲得している。
いかに映像技術において、先進的で重要な役割を、キャメロンが果たしてきたかを示している。また蛇足だが、すべての作品の頭文字が"A"または、"T"になっている。だから本作は"ALITA"になったと言われる。
映像にこだわるキャメロンは今回、IMAX画角のシーンを用意している。全部ではなくオープニングからのアイアンシティと、モーターボール競技場のシーン、クライマックスなどが1.90:1(IMAX)だが、他は2.39:1(シネスコ)だ。
字幕を追っかけている日本人には画角が途中で変わることに気付かないかもしれない(笑)。ときに"吹替版"で観ることも、キャメロンのような映像を満喫する重要な選択肢である。4DXでも観たが、こちらはノーマル。可もなく不可もなく。
またキャメロンといえば、"3Dの権化"。マーベル作品「アベンジャーズ」などの多くの3D映画が2D-3D変換であるのに対して、3Dカメラを2台使ったデュアルストリップ3Dで製作されている。さすがキャメロン!
そして最後に、キャメロン作品には、必ず"愛"が描かれる。
今回もアリータとイド博士との"親子愛"、アリータとヒューゴの"恋愛"が作品の背骨になる。そしてその"愛"は、"悲劇"を伴うことで、よりドラマティックになる。
空中都市ザレムに繋がるチューブから落ちていくヒューゴが雲海の中に消えていくシーンに・・・あっ!と思うはず。その様は、「ターミネーター2」の溶鉱炉に降りていくT-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)、あるいは大西洋に沈んでいくジャック(ディカプリオ)を涙で見送るローズ(ケイト・ウィンスレット)の姿と重なる。
(2019/2/21/TOHOシネマズ日比谷/IMAX・一部シネスコ/字幕:風間綾平)
(2019/2/22/ユナイテッドシネマ豊洲/4DX・シネスコ/吹替翻訳:前田美由紀)