「ニッポンはウソばかり」万引き家族 かわしまさんの映画レビュー(感想・評価)
ニッポンはウソばかり
泣くための映画ではない。考えるための映画だ。泣くと気持ちはすっきりするけどモノを考えない。ニセの家族がスクリーンに生きている間、観客席の私たちは日本の社会の不自由さに身を浸す。
日本は貧乏になった。一生懸命働いても、最低限必要な食べ物と、住むところと、着る物を確保できるとは限らない。食い物が足りなければ万引きをする。年寄りが死ねば死んでないことにして年金をもらい続ける。金がないのだから仕方がない。
日本の家族は人が減った。パパとママと娘しかいない。マンションの箱の中で孤立し、追いつめられている。パパはママを殴り、ママは幼い娘に熱いアイロンを押しつける。弱い者がさらに弱い者をたたく。
だからといって、ニセの家族が希望というわけではないのだ。そもそも万引きは悪いことだ。年金をだまし取るのも悪いことだ。リリーフランキーの「お父ちゃん」はママを殴ったりはしない。それでも最後には、万引きは悪いことだと骨身にしみて思い知らされる。盗んで育てた男の子に教えられる。ニセの家族はバラバラになる。娘は虐待のママの家に帰るしかない。
救いがない。泣くこともできない。ただ悲しくなる。ウソの家族の、ウソの話を見てひどく悲しくなる。
今日の新聞に、ジャパンクラスという雑誌の広告が載っていた。「知れば知るほど、ウラヤマシイ!ニッポン人の暮らしぶりに羨望のまなざし」。心の底からアホかと思う。
「ニッポンスゴイ」は我々を救わない。救いがないところから始めるしかない。しかし何を。たとえばデモか。ボランティアか。選挙に行くことか。少なくとも弱い者をたたくことはするまい。世の中にあふれる弱い者を叩く言葉に加担することだけはすまい。よく分からず、楽ではなく、先の見通しも立たないけれど、まっとうなところでなんとか持ちこたえようとこの映画が言っている。