「逆らえない運命の悲しさ」運命は踊る とえさんの映画レビュー(感想・評価)
逆らえない運命の悲しさ
すごく静かな場面が続く映画だったけど、その静けさにグイグイと引き込まれた作品だった
ベネチア国際映画祭 銀獅子賞 受賞作品
イスラエルで暮らす中年夫妻の元に、ある日突然「息子ヨナタンが戦死した」という知らせが入る
ひどくショックを受けた夫妻だったが、やがて、それが誤報だとわかり…
たとえば、
友人に余計な一言を言ってしまった結果、その友人との仲が険悪になってしまい「あの時、あんなことを言わなければ良かった」と、ひどく後悔するが、
少し時間が経ってみると、「遅かれ早かれそうなる間柄だったんだな」と思うようなできごとがおきる
結局、その相手とは「仲たがいする運命」だった
そんな経験はないだろうか?
この映画を観ながら、そんな「逃れることができない運命」を思った
父も母も、息子ヨナタンに起きたことについて自分を責めているけれど、
そもそも、それはヨナタンに定められた運命だったのでは…
それは、何度やっても、最初のポジションに戻ってくるフォックストロットのように
そう考えれば、きっと、ヨナタンの両親も少しは気分が楽になるのではと思った
そんなことを考えながら、夫妻のダンスを観ていたら、涙が溢れてしまった
それが「もう、お互いに責めるのはやめよう」と言っているように見えたからだ
それよりもむしろ、「一日の通行人がラクダしかいないような過酷な環境に、検問所を置く必要性があるのかどうか」ということの方が問題だと思った
いつ沈むか分からないようなコンテナでの生活を強いられている彼らに、事故が起きたのは、必然としか思えない
だから、責められるべきは両親の言動ではなく、無駄が多すぎる軍隊のあり方なのではないだろうか
セリフが少なく、説明が極端に少ない映画がだけれど、そこに描かれる闇はヨナタンの家にあった抽象画のように深く、
「運命は踊る」というよりも「運命に踊らされる人々の話」だと思った