劇場公開日 2018年9月29日

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「戦場で一人踊るダンス、その姿は運命に翻弄される人間像そのもののようだった」運命は踊る Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0戦場で一人踊るダンス、その姿は運命に翻弄される人間像そのもののようだった

2018年10月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

この作品のファーストシーン、行き交う車も無い何処辺境の地を只ひたすらに車が進んで行く。

そしてシーンは一機に変わり、映し出された処は、息子の戦死の報を受ける両親や家族の混乱するシーンが延々と続いて描かれて行く。
そしてこの様子を時にカメラが天井からのショットで描いてゆく。
それは観る者に、今ここで繰り広げられている物語を登場人物と同じ目線の同次元で捉えるのではなく、上から観察する事で、どこかに人の運命を司り操る、人知を超えた神と言う存在がいるとでも言っているようなカメラワークもクールな様であり、しかし逆に観る者の心を物語の細部へと誘ってゆくこの撮り方も迫力があった。

劇中で、息子ヨナタンの訃報を受けた父親のミハエルがその知らせを自分の母に告げにゆくシーンがあった。そのシーンでは自分の孫の死の知らせを受けたにも関わらず狼狽する事も無く、淡々と事実を受け入れる年老いた老婆の様子が映し出される。
その様を認知症の一種と捉え、この老婆の様子を憂い気遣う家族のシーンもあったけれど、これはきっと年老いた老婆にとり、死の世界は余りにも身近で、いつも自分の際にいる友の存在で有るような当たり前の世界と捉えている感覚が有るのだろうと思う。

この作品では一人の人間の生死を巡っても、人それぞれの自己の立場や故人との関係に因っても同じ人間の死で有る筈の事実が、それぞれに違った意味や形を呈していく事の当たり前だけれど、この不思議な世界を描き出してゆく。

昨今の日本を含めた先進諸国では、引き寄せ等が流行り、自己の人生は自己の思い描いた通りに作り替える事も可能かもしれないと言う、人間の人生の質という物は、それぞれ自己の管理責任に因る処が多いと、人の生まれながらに持つ運命の存在を軽視する捉え方も有る一方で、本作のように人の運命の不思議さに切り込んでゆく作品が作られている事は実に面白かった!

私は神だか何だかは知らないけれど、人が存在し生きると言う事には、何らかの力が必ず介在していて、私達を生かしてくれているように感じながら日々を送っているのだが、あなたは本作を鑑賞して、人の運命をどのように捉えるのだろうか?

私はこの映画のラストを観て、人間が生きると言う背景にはきっと必ず、こんな不思議な運命の存在が大きく横たわっているに違いないと感じずにはいられなかった。

ryuu topiann