「終始ハッピーな王道ロマンティック・コメディ!」クレイジー・リッチ! 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
終始ハッピーな王道ロマンティック・コメディ!
私はロマンティック・コメディが大好きだ!
近年はハリウッドでもなかなかロマンティック・コメディが作られず、ジュリア・ロバーツ、メグ・ライアン、サンドラ・ブロック、キャメロン・ディアスらが活躍した90年代や、オードリー・ヘップバーンやキャサリン・ヘップバーンらが活躍したハリウッド黄金期のようには「ロマンティック・コメディ」というジャンルが市民権を得られていないのを、時代性も見据えて仕方ないことだとは認めつつも残念に思っていた。そんな中、ハリウッドにおいて、メインキャストをすべてアジア人でそろえたロマンティック・コメディが成功し大ヒットしたというのは、日本人である私にとって実に喜ばしいニュースだった。そして期待に胸を膨らませて映画館へ行けば、まさしく「これぞロマンティク・コメディ!」と叫びたくなる映画をアジア人の姿で見られることの重大な意義。白人を主人公にしたロマコメでさえヒット作が出ない現代に、この映画をヒットさせたアメリカと言う国を私は大いに見直した!!ロマコメの王道を行く、清潔で健全で洗練されてそしてチャーミングな実に正統派のロマンティック・コメディ。王道のロマコメでありながら、アジア人がメインキャストという新鮮さ。まぁ実際の問題として、メインキャストを特定の人種で統一するというのもある種の逆差別でもあるわけで、いずれはそういう映画も淘汰されていくであろうことを考えれば、この映画は今現在この時代だからこそ成立し得た作品だったかもしれないという風にも思うのだけれども、かといってアジア人のみでロマコメを作るという新鮮さだけに頼った映画では決してないところもとても嬉しいところだった。
ハリウッドの映画に出てくるアジア人(主に中国系)と言えば、騒々しくて品がなくてやや貧困なキャラクターが多かったように思う。しかしこの映画に出てくる中国系の人々はいずれもそれぞれに洗練されていて都会的でなおかつ裕福でモダンな人々。そういう人々を自然と描いているのもそれまでのハリウッド映画を思えば画期的なこと。現代のニューヨークの街並みを歩けば、観光客以外の中国系アメリカ人ですれ違うのはたしかにこういう人々だったりするものだ。そうしてアジア人をメインにした物語が洗練された男女のそれとして描くことが出来たのも、やはり洗練された現代のアジア系クリエイターが作り上げた作品だからなのではないだろうか。アジア人に対して欧米人が抱くイメージの全て裏手を行く、リッチで贅沢な姿をまざまざを見せつけて痛快以外の何でもなく、絢爛で乱痴気騒ぎをしてもどこかソフィスティケートされているところがまた好きだった。
王道を行く物語だとは言え、小さなジョークはそれぞれに冴えているし、終盤へ向けての展開にはやはり巧いなと思う部分が多数ある。クライマックスへ向かう展開で描かれるヒロインの心情の繊細さと現代的リアリズム。そしてその流れが実に綺麗で爽快。ついでに言えばあの浮気夫と妻のエピソードも好きだった。夫が浮気をしたことが許せないのではない。チャンスがすぐ目の前にあるのに掴もうともせずに自己憐憫に浸って浮気に走ったその不甲斐無さが一番許せなかった、という妻の気持ち。わかるよ。そりゃエンドロールでちょっとしたご褒美をあげたくもなるよね。こういう細部の説得力が、他の登場人物も含めた作品全体においてしっかりと描かれているのがまた好印象だった。一番は金髪の親友ペク・リン!よくあるヒロインの親友役の賑やかし要員のように見せかけて、こんなに親友想いの女友達なら誰だってほしい!映画を見ながら、ペク・リンと友達になりたい!と心底思ったほどだった。
近年はハリウッドに対してロマンティック・コメディというジャンルにおいてはまったく期待しておらず、事実ハリウッドの映画業界はこの映画をホワイトウォッシュしようとした経緯もあるようだ。それでもそれらを振り切ってアジア系で作り上げたこの映画を誇りに思うし、この作品を支持してくれるアメリカと言う国にはまだまだ望みはあると思う。ハリウッドが目を覚ますまでは時間がかかるだろうけれども、観客は登場人物が白人だろうが黒人だろうがラテン系だろうがアラブ系だろうがアジア系だろうがストレートだろうがゲイだろうがトランスだろうがクイアだろうが、いずれにしたって面白い映画を観たいのだよ、ということを声を大にして言いたいし、日本においても、ジャニーズだろうが電通だろうがテレビ局系列だろうがインディーズだろうが無名だろうが関係なく、面白い映画を観たいのだよ、とやはり言いたいのである。