「移民2世の共感を得る、”バナナ”という表現に笑える。」クレイジー・リッチ! Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
移民2世の共感を得る、”バナナ”という表現に笑える。
今年一番のハッピーな映画かもしれない。単純に楽しいだけでなく、いろいろと画期的な作品である。話題となっているのは、ハリウッド映画ながら主要キャスト全員がアジア系であるということ。
ヒロインは、生粋のニューヨーカーで経済学の教授である中国系アメリカ人のレイチェル・チュウ。ある日、彼女の恋人ニック・ヤンが親友の結婚式に出席するため、一緒に故郷のシンガポールへ行こうと誘われる。しかも彼の家族や親せきに紹介するという。
ところが出発当日、空港で案内されたのはファースト・クラス。彼はアジア屈指の不動産王の御曹司だった…。しかも社交界ではセレブ女子たちが憧れる超人気の独身オトコ! 親族からは資産目当てではないかと思われ、セレブ女子たちからは嫉妬され、バッシングの中、幸せをさがすラブコメディである。
今春、大ヒット作品「ブラックパンサー」(2018)が、やはりアフリカ系アメリカ人によるヒーロー映画であることで注目された。これまでのハリウッド映画では、ヒーローはいつも"白人"であることに疑問を持つことはありえなかったからだ。
これは白人の国であるアメリカにおいて当然のことであったが、いまやハリウッド映画は世界マーケティングを前提としている。先の「ブラックパンサー」を製作したディズニーは、「スター・ウォーズ」シリーズでも、意図的に女性や有色人種をキャスティングしている。
本作でも、白人以外の役柄に白人をキャスティングする、"ホワイトウォッシング"の要請があったと、原作者のケビン・クワンは証言している。ヒロインのレイチェル役を"白人女性にしたい"という映画化オファーである。もちろんクワンはその提案を一蹴している。
そんな中、主演のレイチェル役に選ばれたのはコンスタンス・ウー(台湾系アメリカ人)、恋人のニック・ヤン役にヘンリー・ゴールディング(マレーシア)が選ばれ、原作に忠実な、画期的ハリウッド=アジアン映画が完成した。
いちばん有名な共演者は、ミシェル・ヨー(マレーシア)だろう。「007 / トゥモロー・ネバ―・ダイ」(1997)ではボンドガールを務めた元・ミスマレーシア。また、ニックの祖母アー・マー役は中国出身のリサ・ルー。
さらには日系人もいる。劇中でシンガポールのファッション・アイコンであるアラミンタ役を演じているのが、ソノヤ・ミズノ(水野苑陽)である。
なんといっても注目は、ヒップホップ・アーティストのオークワフィナ(AWKWAFINA)だ。彼女も中国系アメリカ人の父と韓国移民の母を持つアジア系。先日の「オーシャンズ8」(2018)にも女スリ師のコンスタンス役で印象的な登場をしていたが、彼女が話題となったのはそのアーティストとしての衝撃的なラップ曲「My Vag」(2014)である。直訳すると、"私のヴァギナ(性器)"だからね!
劇中では、レイチェルの大学時代の友達ペク・リンを演じていて、彼女の実家もシンガポールのお金持ち。庶民のレイチェルをセレブに負けないようにドレスアップさせ、高級車で送迎する。このシンデレラ物語において、カボチャの馬車とドレスを用意する妖精"フェアリー・ゴッドマザー"的ポジションなのである。
本作の設定は、原作者クワンの実体験から生まれている。だから本当にいるアジア系のスーパーリッチとはどんな人々なのかがわかる興味深い作品で、世代を重ねて家族を大事にし、自分たちのルーツである民族文化・風習も守っている。アジアの風習と同時に、セレブのファッションを楽しむこともできるし、その生活常識までものぞき見ることができる。
またアメリカでのヒットの背景には、移民の国における、"●●●系2世・3世"たちが共感するテーマにもなっていることだろう。
それを象徴する言葉に、"バナナ"という表現が出てくる。同じルーツの中国人だから分かり合えると思っているレイチェルに対して、"外見は黄色(アジア人)だけど、中身は白(アメリカ人)"とバカする言葉だ。
生まれたアメリカでは"少数民族"は差別され、ルーツである国では"貧乏アメリカ人"と見下される始末。さらに個人主義のアメリカ人に対して、血族優先主義の国があるという現実。
実は原作には続編「チャイナ・リッチ・ガールフレンド」と「リッチ・ピープル・プロブレムズ」がある。本作のヒットによって映画化されることは間違いない(第2弾はワーナーが先日発表済み)。
続編もいまから楽しみであるが、その前に、もう何度か見返してみたい作品である。
(2018/9/29/TOHOシネマズ日本橋/シネスコ/字幕:小寺陽子)