「栄光と挫折を知る男の、愛の形」アリー スター誕生 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
栄光と挫折を知る男の、愛の形
私にとって、これはアリーではなく、ジャクソンの話であった。
聴覚を失う恐怖と、音楽に真摯でありたいという心の間でもがくジャクソン。
酒浸りの毎日に、そこで出会った魂の歌声。
アリーの作る曲は、ジャクソンのバンドのアレンジにぴったりマッチしていた。
誰の目にも、ジャクソンと出会った頃のアリーが一番輝いていただろうと思う。
私は個人的にブルースロックやsouthernrockの類が好きなので、レイナード・スキナードなどを彷彿とさせるジャクソンの曲は大好きだし(枯れ感のあるブラッドリー・クーパーの声には驚いた)、初めて二人で歌い上げた「シャロウ」と、「二人を忘れない」を聴いたときには鳥肌がたった。
それなのにアリーが敏腕プロデューサーのレズに出会ってからは、流行りに乗っかった安っぽいポップミュージシャンになってしまって…ソロで歌い上げたシャロウのアレンジも全然よくなかった。その姿がレディー・ガガそのもの近づいていく、メタフィクションのようではあったが。
元々自分に自信が無かったアリーは、自分が業界の「売りたい物」に押し込められていくことに気がつかない。ジャクソンはもどかしくも、どうしようもない。こういうことは自分で気がつかなければならないのだ。
ジャクソンを失って初めて、自分の才能と魅力を再発見し「スター」となるアリー。
「もう一度君の姿を見たかった」といったジャクソンの姿が繰り返し、繰り返し頭を流れる。ある堕ちていく男の、最後に残した愛の形が切ない。
比較するものではないが、バーブラ・ストライサンドの後光のように全方位的に響きわたる歌声を聴いたときの衝撃は凄かった。今回、ガガはブラッドリー・クーパーがいてこその輝きだったと言えるだろう。