「まさかの"レディオ・ガ・ガ"(「RADIO GA GA」)からの、レディ・ガガ(Lady Gaga)」アリー スター誕生 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
まさかの"レディオ・ガ・ガ"(「RADIO GA GA」)からの、レディ・ガガ(Lady Gaga)
1年の〆にこんなに泣かされるとは思いもしなかった。 まさかの"レディオ・ガ・ガ"(「RADIO GA GA」)から、レディ・ガガ(Lady Gaga)である。「ボヘミアン・ラプソディ」も記録的な観客動員を続けているが、2018年は「グレイテスト・ショーマン」も、「マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー」もあり、まさしく音楽映画の豊作の年となった。
音楽映画の成功条件は、"楽曲の良さ"に尽きる。ミュージカル映画ならば、"ダンス"も重要だが、それも楽曲あってのことである。QUEENやABBAの映画は既存曲があってのテッパン作品だが、本作の素晴らしさは、レディ・ガガ作曲によるオリジナル楽曲だ。もうだいぶ耳慣れた「シャロウ~『アリー/ スター誕生』 愛のうた」は、映画のために書き下ろされ、映画シーンに寄り添った名曲として心に残りつづけるだろう。
まさか名作のリメイクから、それ以上のものが生まれることなんて、そう易々とは起きない・・・はずだった。本作はそれを見事に成し遂げている。
本作のオリジナルは、映画業界を舞台にした1937年版「スタア誕生」である。その後、ジュディ・ガーランド主演でミュージカル映画(1954年版)になっているが、音楽業界を舞台にしているという意味では、バーブラ・ストライザンドの1976年版のリメイクである。稀代のスター、バーブラ・ストライザンドも自ら主題歌を作曲・歌唱した「スター誕生の愛のテーマ」が大ヒットしているが、レディ・ガガの「シャロウ」は、それと肩を並べようとしている。
個人的には、「映画」はまだまだ新しい文化・芸術の開拓者であってほしいと思うものの、ネタ切れ感は世界的にはなはだしく、リメイクの時代に入っている。製作費を集めるために投資家を説得するには、小説やコミックの大ヒット原作がなければ、新作も作れない。
名作をリメイクして蘇らせることを否定するつもりはない。むしろ映画は古典芸能になりつつある。クラシック音楽や歌舞伎、古典落語、シェイクスピア劇などと同様である。
本作は当初、クリント・イーストウッド監督に持ち込まれた企画だったというが、初監督となったブラッドリー・クーパーの巧みで綿密な計算と、主演俳優としての演技力、女優レディー・ガガの魅力を引き出し、彼女の持つ作曲力と化学反応を引き起こした。
バーブラ・ストライザンド版のオリジナルをとてもよくリスペクトしつつも、主人公をロック歌手からカントリー歌手に変更し、"旧世代から新世代"への時代の変わり目というコントラストを強く打ち出している。
オリジナルにはない、父と息子、父と娘、兄弟といった家族の物語要素を持ち込んでいるのもリメイクに人間性の厚みを生み出している。
さらに死因を、"不慮の事故"から、より"アルコールおよびドラッグの依存症"と因果関係の強い"自殺" にイメージさせていることも、悲劇を増長させる。依存症患者の描写がリアルで、それを自ら演じるブラッドリー・クーパーの凄まじさ。
映画と主題曲がより緊密につながっている。本作では「シャロウ」も、クライマックスの「アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン」も主人公2人の共作・歌唱という設定にしたところが秀逸である。これにより真の"ラブソング"に昇華させている。
ライブシーンの再現が丁寧で、録音やドルビーアトモスによるミキシングも素晴らしい。驚くべきは、ブラッドリー・クーパー自身も相当なヴォーカルトレーニング(ギター演奏も)を積んでいる。
もちろんレディー・ガガの演技も評価されるべき。バーブラ・ストライザンド版もそうだが、ホイットニー・ヒューストンの「ボディガード」(1992)しかり、ビヨンセの「ドリームガールズ」(2006)しかり、現実の歌姫が、"歌手役"を演じるのは実に好ましい。
ちなみに、"大スターに新人女優が見出されて、スターになる"という設定は、「雨に唄えば」(1952)や「アーティスト」(2011)など、ハリウッド映画人たちの大好物。つまりゴールデングローブ賞やアカデミー賞での評価も自然と高くなるはず。主題歌賞は当確でしょう。
エンドロールで「故エリザベス・ケンプに捧ぐ」とあるのは、クーパーが演技を学んだNYアクターズスタジオ大学院での恩師の名前である。
(2018/12/23/TOHOシネマズ日比谷/シネスコ/字幕:石田泰子)