「自身の才能と信じてくれた愛があって、星は輝き続ける」アリー スター誕生 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
自身の才能と信じてくれた愛があって、星は輝き続ける
『グレイテスト・ショーマン』に『ボヘミアン・ラプソディ』…。
音楽映画にヒット作が続いた今年、年末にもう一本。個人的には一番良かった。
また、時期的に今年最後の劇場鑑賞。締め括りにも相応しい良作であった。
落ちぶれたスター歌手と、彼に見出だされスターになっていくヒロインの、ラブ&音楽&サクセス・ストーリー。
過去に何度も映画化された言わば使い回されたネタを蘇らせたのは、何と言っても主演スター2人の魅力に尽きる。
人気スター、ブラッドリー・クーパーに、新たな2つの才能を見た。
本作で監督デビュー。ブラッドリーの演出は、アップを多様し、演者の心情を丹念に描写。それでいてライブ・シーンは、きらびやかな映像と臨場感。
熱演は勿論、その歌唱力とギター演奏の見事さには驚かされる。
ブラッドリーにこんな才能があったとは…!
それはもう一人の…いや、実質主役のスターにも言える。
レディー・ガガに、これほどの演技力があったとは…!
レディー・ガガは案外嫌いじゃない。楽曲はなかなか好きで、東日本大震災が起こった際いち早く義援金を送り、好感すら持っている。
奇抜なスタイルや圧倒的なパフォーマンスは、常に我々を楽しませ、驚かせてくれる。
本作での名演もそうであり、つくづく超一流のエンターテイナーなのだ。
言うまでもなく、歌唱シーンは彼女の本領発揮。
そしてもう一つ驚かされたのは、すっぴんの方が美人やん!
楽曲はいずれもブラッドリーとガガによるオリジナル。
そのどれもが素晴らしい。2人の出会いの曲、ブラッドリー演じるジャクソンのソロ曲、デュエット曲、主題曲“Shallow”、ある想いに溢れたクライマックスを飾った曲…。
本当に音楽というものは、人々を惹き付け、伝え、感動させる。
話的には音楽映画あるあるでオーソドックス。
でも先にも述べた通り、使い回されたネタを、現代感覚の魅力的な音楽ラブストーリーとして蘇らせている。
ご存知の通り、当初はクリント・イーストウッドが監督する予定だったが、この瑞々しさとフレッシュ感、イーストウッドだったら出せなかっただろう。
多少の長さは感じたが、幾度のリメイクのプレッシャー、未知数だったブラッドリーの演出手腕、ガガの起用…全ての不安要素をものの見事に吹き飛ばした。
本作が長きに渡って幾度も語られる理由は、いつの時代にも通じるものがあるからだろう。
才能ありながらも、スターになれる者と、なれない者。
ベタな言い方だが、恐れず、一歩踏み出す勇気。
ジャクソンのライブに招かれたガガ演じるアリーが、当初は拒みつつも、一歩踏み出し、その才能を開花させるシーンは胸がすく。
誰もがこのシーンのアリーに魅了される筈。
しかし、全てが薔薇色ではない。
誰かが成功し、スターになるという事は、その一方で、誰かが表舞台から消えていくという事だ。
ジャクソンの落ちぶれっぷりは、見ていて悲しくなってくる。
難聴のせいでもあり、アルコールやクスリに溺れる自らの弱さのせいでもある。
素晴らしい才能を発掘した張本人なのに、どうしてこう堕ちていくのだろうと痛ましくもなってくる。
勿論、再起する者も居るが、全員がそうとは限らない。星もいずれは輝きを失い…。
仕方のない事なのかもしれない。それがショービジネスの世界。光と陰。
だが、放った輝きは本物だ。
スタアの誕生と成功には、自身の才能と信じてくれた愛があったからこそ。
その想いの為に星は輝き、歌い続ける。