アリー スター誕生 : 映画評論・批評
2018年12月11日更新
2018年12月21日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
ガガの芳醇な歌唱力が全面開花。過去最高にリアリティのある「スター誕生」
プロのシンガーになることを夢見ながらウェイトレスとして働いていたアリーが国民的な人気を誇るロック・スター、ジャクソンと偶然出会う。彼の導きによって才能が覚醒したアリーは、瞬く間にスターダムへの階段を駆け上がっていく。しかしジャクソンのキャリアは反比例するかのように下降していき……。そんな二人の愛の苦悩と歓びを描いた「スター誕生」は、過去3回も映画化されている<ハリウッドの文化遺産>だ。
その文化遺産の監督の座を、当初予定されていたクリント・イーストウッドから譲られて監督も兼務することになった主演俳優ブラッドリー・クーパー、そして過去にジュディ・ガーランドやバーブラ・ストライサンドといったハリウッド・レジェンドが演じてきた大役を任された主演女優レディー・ガガにとって、プレッシャーはどれほどのものだったろう。
しかし二人はそのプレッシャーをはねのけた。劇中で歌う楽曲を自ら作るほど役に入り込んで酒浸りのロック・スターになりきったクーパーは、ライブシーンを実際にロックフェスのステージで撮影することで映像に躍動感をもたらして、俳優と監督の二役を見事にこなしている。
一方のガガも、これまで奇抜なルックスの影に隠れていた芳醇な歌唱力を全面開花。映画内で描かれるルーツロックからダンスポップへの音楽性の変化は、彼女自身のキャリアとも重なっているから説得力満点だ。そう、本作は過去最高にリアリティのある「スター誕生」なのだ。
そのリアルさに寄与しているのが、過去のバージョンとは異なり主人公ふたりの家族が登場すること。サム・エリオットとアンドリュー・ダイス・クレイがそれぞれジャクソンの兄とアリーの父親を好演しており、物語世界に奥行きを与えている。特にかつて全米一の毒舌コメディアンだったことが信じられない後者の滋味深い佇まいには驚かされた。
(長谷川町蔵)