「団塊の更に上の世代の夫婦関係」天才作家の妻 40年目の真実 めいべいびーさんの映画レビュー(感想・評価)
団塊の更に上の世代の夫婦関係
1992年にノーベル賞受賞、1958年に教師と生徒の関係だったという設定なので、2019年時点で存命だとしたら90代と80代くらいの夫婦の話。
そう思って鑑賞しないと「よくある熟年離婚の危機」、さらには「そもそも私はこんな我慢はしない」で終わってしまう。
強固な意志と運が無ければ女性が表舞台で正当な評価を勝ち得ることが困難だった時代、主人公ジョーンは夫のジョセフの立場を利用して間接的にでも自分が認められることを望んだのであり、一方的に彼の「奴隷」になったのではない。
実際、「私なら書き直せる」とジョーン自らゴーストライトを提案したことが、すべての始まりなのだ。
夫の社会的成功が妻の手柄であり「内助の功」が讃えられる時代、これはこれで幸せと言える共犯関係だったと思う。
(話はそれるが、今どきのイクメンでも「お手伝い」感覚の人が多い中、ジョゼフ世代の男性が家事や育児を担うって半端な覚悟では無理だし、彼だって頑張ったのだ)
しかし1990年ともなれば日本ですら雇用機会均等法が成立し、女性の立場がどんどん変わっていく。
ジョーンとジョセフの役割(どちらが作品を書くか)は昔のままなのに、世の中が変化していく。
そしてノーベル賞の受賞が引き金になって、ついにジョーンは我慢がきかなくなってしまう。
こんな華々しい栄誉をジョセフが受けることが無ければ、彼女は不満を持ちつつも自己を抑え、離婚を切り出すことはなかったのではないか。
良妻賢母とか夫唱婦随とか、世間から叩き込まれ、従って生きてきた価値観は簡単には捨てられないものだから。
そんな中ジョセフが急死し、どうなるのかと見守ればジョーンは記者ナサエルに「夫の名誉を傷つけたら訴える」とラストで釘を刺す。
評価の別れるシーンだと思うが、自分の祖母を思い浮かべながら私は妥当と感じた。
娘と息子には本当のことを話して溜飲を下げても、対外的には夫を貶めない。
ジョセフが作家として成功した後も「影」でいることを選び続けたジョーンなのだし、騒動を起こさなくても「賢夫人」の立場で第2の人生を謳歌すればいいのだから。