「フランケンシュタインの母」人魚の眠る家 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
フランケンシュタインの母
割り切れない大人たちの話しだった。
でも、その割り切れなさを成立させてしまえる技術にこそ焦点を当てるべきかもしれない。
「死」というものの境界線を描いているようにも思えるのだが、それを曖昧にしてしまえる機械が今の世にはある。
それを肯定するような世論もある。
何より道徳心が揺さぶられる。
息をしてるようにみえ、体温も暖かいのならば、どうやって「死」を信じれはよいのだろうか…。
その幻覚を作り出すのは人のエゴだ。
そのエゴの塊が、瑞穂だ。
俺は少女を見て可哀想としか思えなかった。
今作は母のエゴを存分に描いていたようにも思う。同情はしてしまう。
あの時、腕が動かなければ。
比較的裕福な家庭環境でなければ。
延命できる装置がなければ。
人を傀儡のように動かせる科学が進歩していなければ。
あなたは、受け入れるしかなかったであろう。
篠原さんは、そんな母の狂気を日常を過ごすかのように、呼吸をするかのように、緩やかに平凡に纏っていて見事だった。
献身的な母の姿が、中盤以降ホラーに思えるような演出も見事。
優しい眼差しを娘に向けながら、電気信号で娘の四肢を傀儡の如く操る姿には戦慄を覚える。フランケンシュタインというモンスターが、現代に生誕する一歩手前のようだった。
終盤に差し掛かり、娘の目が開いているカットには鳥肌がたった。
まさか、ここまでホラーのようだった話しを母性の勝利として完結させるのか、と。
いやいや、夢落ちなんだろう?
でもでも、夢落ちであったとしても娘が恨み辛みを吐露する事もあるんじゃないのか?
…息をのんだ。
彼女への審判が娘によって下される瞬間に釘付けになった。
でも、娘の口から出たのは感謝の言葉だった。
感動するところなのだろうけれど、俺の人間性が歪んでるのか、結局は自己満足だろと凡庸な結末に息を吐いた。
初めから受け入れておれば、誰も必要以上に悲しまずに済んだ。
葛藤といえば聞こえは良いのだろうが、自己中心的な妄想に全員を巻き込んだ。
誰も彼女を止めはしなかった。
そこにも現代人が持つ歪みを感じてしまう。
フラットには考えられない。
何が正しいのか、誰も判断しない。
誰もその責任を負いたがらない。
声を荒げ、突き進む他人を止められない。
色々、辛辣な作品だった。
最近のマイクは性能がいいのか、はたまた録音部の好みなのか、吸気音まで明瞭に捉えてしまう。西島氏が台詞の前にいちいちする呼吸が耳障りで仕方がなかった。
人魚の肉には不老不死の効能があるとの言い伝えがある。人魚自体が空想の域を出ないので、その効能を唱えられてもピンともこないのだが、だからこそ、このタイトルには得心がいった。