「辛く重いテーマだが、このような状況が不幸だけをもたらす存在では無い事を気付かせてくれた」人魚の眠る家 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
辛く重いテーマだが、このような状況が不幸だけをもたらす存在では無い事を気付かせてくれた
毎度の事ながら、本作の東野圭吾に因る原作は未読の為に、何処まで原作の良さを描き出しつつ、映画としての面白さを表現出来ているのかは判断が私には出来ない。
だが、ファーストシーンとラストシーンの繋がり方が心地良くて、重い筈の本題のテーマである、臓器移植や、脳死判定等の医療制度に付いての問題点及び、それに纏わる家族みんなの葛藤と言うとても深くてしんどいテーマを見事に、描き出している作品だったと思う。
人命そのもの重さは勿論の事だが、人間が生きているとはどういう事なのか?その命の尊厳と、生きている事の意味を深く考えさせられるヒューマンドラマに仕上がっていると思う。
流石は堤幸彦監督ならではの、エンターテイメント性溢れる画作りに感服した!
私は父親の立場と祖父母の立場で物語を注視していたが、もしも自分が瑞穂の親ならばどう言う決断をするかが、ずーっと最後まで付き纏っていた。
西島演じる瑞穂の父が偶然にも、最先端医療の機器に関わる会社の経営者と言う事も有り、尚更瑞穂の延命が可能となる分、問題を長引かせる結果となったのは、果たして瑞穂にとっては幸せな事だったのか?私には結果が分からない。
余談だが私も、今年、年老いた母の末期がんの介護で最後は延命処置をするか?しないかの決断は自分一人の問題ではないので、物凄い葛藤があった。
実際にこの主人公のような家庭を持つ立場に自分が陥ったならば、経済的なゆとりの有る無しに関わらず、延命させる事の是非の判断は易々と出来るものでは決してないし、下した判断が正しい物であったのかについての疑問は、常に長く付き纏う。
本作を観ていて一番心が痛かったのは、矢張り瑞穂の祖母を演じた松坂慶子の存在が重くしんどい。
彼女は被害者では無く、同じ家族の中でも唯一の加害者になってしまうと言う不幸を更に背負い込む分、瑞穂が回復する事をどれ程望んで止まなかったかを想うと、今でも心が痛む。
そんな中で、瑞穂の治療を手助けする事になる、星野を演じていた坂口健太郎の存在に救われた。真面目で嫌味も無く純粋で少し天然要素を含んでいる彼の優しい存在感にかなりほっと出来た。
母親の薫子もきっと、この研究者がいてくれていた事はかなり希望と救いになっていただろう。
そして少しずつ、壊れて歪んでゆく薫子を演じていた篠原涼子は完全に夫を演じた西島の影を薄くしていたね。
何と言っても母親の子供救いたいと願う事に対する執念の強さに敵う者は存在しない。
それにしても、邦画界でも最近の子役は芝居が上手になってきたものだ。ちゃんと役柄に成りきっているのに、驚きと関心をする。今後が楽しみな三人だ。
薫子が介護疲れで寝入っている時に観る夢に更に、感動する。現実にも似たような出来事はきっと起こるだろうし、何よりも人間が肉体という身体だけの存在だけではなくて、人の本質は魂で、それはどの様な状況でも、家族と繋がって離れるものでは決してないと言う事実にも納得出来るシーンだった。それ故に、私は脳死を持って、やはり死亡判定をする事は認められずに、心肺停止を持って人の死と捉えている日本の今の医療の考え方をどちらかと言うと指示するかも知れない。本作は観る人それぞれの立場や、考え方で評価が大きく分かれるかも知れないですね?