「泣けますか?気持ち悪いだけですよ。」人魚の眠る家 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
泣けますか?気持ち悪いだけですよ。
先に言いますが、感性は人それぞれですので、これを見て泣いたという感想を貶めるつもりはありません。僕がよかったと思った映画を駄作という人もいるし、それはそれで構いません。
この映画は、僕にはとても薄気味悪い映画でした。
狂っても守りたいものがある、とは言うけれど、狂っている奴の言葉を素直に受け止めてくれるほど、世間は甘くはないですよ。
はじめ、テクノロジーの素晴らしさに驚嘆し歓喜した旦那が、徐々におかしさに気付き始めたでしょう?
科学者の恋人は、まるで啓蒙セミナーにのめり込む人間と同じような科学者の変化に、初めから気付いていたでしょう?
弟の同級生は、皆気持ち悪いって言ってたでしょう?
公園で行きかう人々は好奇と嫌悪の眼で遠巻きにしてたでしょう?
そういう感覚の方が普通なんじゃないのかな?
科学者の恋人の言葉や態度こそ、僕の感覚そのものでしたよ。
随分以前に、どうしても子供が欲しいと欲した芸能人夫婦がアメリカに渡って願いを叶えたことがあった。彼らはとてもすがすがしい笑顔で記者会見をしていたけど、見ているこっちはどうしてそこまで?という違和感がぬぐえなかった。生命に対する冒涜じゃないかと。この映画も同じ。財力がありたまたまその研究が身近にあった夫婦が、自分たちのエゴを叶えようと突き進む、そんな話。
あのあと誰も止めてあげなかったとしたら、おそらく母親は『青頭巾』に出てくる、鬼になった坊主のように変わり果てていったんじゃないかと思う。例えば、心臓が止まっても認められず、その肉を食らうような。
おまけに、夫婦役ふたりの棒演技に興ざめさせられる。ああ、そうだ、監督はあの人だったっけ、とさらに冷める。
鑑賞後の気分は、不愉快しかなかった。