劇場公開日 2021年2月26日

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「『ラン・ローラ・ラン』を彷彿とされる疾走感とリズム感」ガンズ・アキンボ 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0『ラン・ローラ・ラン』を彷彿とされる疾走感とリズム感

2021年2月27日
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笑える

楽しい

どこの世界でもアイドルからの脱皮はなかなか困難だ。まして、世界的にヒットした人気シリーズの看板を背負わされた場合は。とまあ、こんな前置きも無意味なくらい、近頃のダニエル・ラドクリフにハリー・ポッターの面影は皆無である。恐らく、七転八倒の末に彼が見つけた新たな居場所は、異常事態に陥った青年が必死でサバイバルしようとする時に生じるカオスとスピード感、ではなかったか。刑務所から脱出を試みる『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』然り、南米のジャングルで生き延びようとする『ジャングル キンズバーグ19日の軌跡』然り(数字が並ぶのは偶然か?)、そして、無人島からの脱出に必要なガスを出す死体に扮した極め付けの『スイス・アーミーマン』然り。異常事態なのは主人公のポール・ダノだが、俳優として死体になるということ自体がダニエルにとって異常だったはずだ。そして、最新作では本物の殺し合いを配信する闇サイトに過激な書き込みをしたばっかりに、殺し屋と戦うハメになるゲーム・プログラマー役を演じているダニエル。両手にボルトで拳銃が固定され、まるでシザーハンズ状態の彼がギリギリで死を回避し、出口が見えないサバイバル劇に身を投じるプロセスは、主人公が恋人を助けるために夏のベルリンを駆け抜けるトム・ティクバの『ラン・ローラ・ラン』を彷彿とさせる。どちらにも共通するのが疾走感とリズム感だ。今のダニエルには、それを体ごと表現するだけのスキルがある。決してかっこ良くはない捨て身のサバイバー役が板についているのだ。こうして、ハリー・ポッターは見事に生き残ったのである。

清藤秀人