「クリントイーストウッド監督の傑作のひとつ」15時17分、パリ行き スワッチさんの映画レビュー(感想・評価)
クリントイーストウッド監督の傑作のひとつ
他の方々の採点が意外と厳しいため、星をたくさん付けたくて初めてレビューを投稿します。私は映画史に残る名作とまでは言いませんが、かなりの秀作ではないかと感じました。元来ノンフィクションやドキュメンタリーが好きなので、「タリス銃乱射事件」という現実に起こったテロ事件を題材にしていることが、この作品のネガティブな箇所を見えなくして、好印象につながったのかもしれませんが。
ダイハードやエアフォースワンみたいに、テロとの戦いを全面的に描いている作品と思いきや、この映画には不死身のヒーローは登場しません。幼なじみの若者3人組を主役に据え、少年時代の彼らの出会いから事件の列車に乗り込むことになるまでの日々を丹念に描くことに多くの尺を費やした青春ムービーでした。
問題児だった少年たちが、人生の目標を見つけて奮闘努力して成長してゆく様子を描いた前半の部分は、本筋にどんな関係があるのか疑問でしたが、実はそれらのエピソードが大事な伏線であったことがラストで分かります。
中盤のヨーロッパ周遊のパートはロードムービー風。彼らがどこにでもいる普通の若者たちであることをさらに印象づけます。女の子にデレデレしたり、スマホで自撮りをしまくったり、踊り飲み明かして二日酔いになったり。まもなく彼らが英雄的な活躍をすることになるとはとても思えません。 しかしそんな中で、ところどころに列車の中の緊迫した短いカットが効果的に差し込まれ、これから起こる大事件の予感と緊張感を見る者に与えてくれます。
そしていよいよクライマックスの列車内の場面。志望したアメリカ空軍に入隊してからも挫折を味わっていた主役のスペンサーが、わが身の危険も顧みず、迷うことなくテロリストに立ち向かう姿に感動。教師にも見放されかけていた太っちょの少年が、実にたくましい青年に成長していたのです! 決死の格闘の末にテロリストを締め上げるシーンはもちろん、瀕死の重傷を負った乗客の救命処置もリアリティと緊迫感があって迫力満点。カメラワークが良くて自分もその場にいるかの様に感じられ、手に汗を握って画面に釘付けになりました。
エンディングは3人がフランス大統領から勲章を授与される式典のシーン。彼らの母親たちも式に出席していて、誇らしそうに我が子を見つめる場面は泣けました。
・優等生ではなくダメダメな子だった人、そんな子どもの親になった人
・長い付き合いの仲間や友人がいる人
・何かに挑戦して挫折した経験のある人
・人に親切にしたり、人の役に立つことをしたいと願っている人
には刺さる映画だと思います。(私も上記のほとんどに当てはまっています)
3人の演技力について酷評する向きもあるようですが、英語のニュアンスが分からない私は全く気になりませんでした。本職の俳優さんのようにルックスもよく、個性的で素敵な雰囲気も持っており、自然な演技だったと思います。本人たちを起用することで究極の再現ドラマになりました。イーストウッド監督の挑戦に拍手を贈りたいです。
スリルと興奮、挫折とサクセス、友情、勧善懲悪といった映画を楽しむための要素が94分というコンパクトな尺の中に上手に詰め込まれ、さらに人間の良心や強さや弱さ、我が子を信じることの大切さ、命の尊さ等を考えさせてくれる良作だと思いました。
※NHK BSのプレミアムシネマで鑑賞しました。