「一般人がヒーローになるまでの軌跡」15時17分、パリ行き といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
一般人がヒーローになるまでの軌跡
「実際にあった鉄道テロ事件を、実際の乗客をキャストに迎えて撮影した映画」という話を聞いて、「めっちゃ面白そうじゃん」と思って鑑賞いたしました。
クリント・イーストウッド監督の作品は以前『リチャード・ジュエル』を鑑賞したことがあります。この作品も実在の事件を題材にした作品でしたね。私は『リチャード・ジュエル』は実在の事件を取り扱った作品ゆえに盛り上がりに欠け、「脚色不足」という評価をしました。今作がどのような映画になっているか、期待しながらの鑑賞です。
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アンソニー・サドラー(本人出演)、アレク・スカラトス(本人出演)、スペンサー・ストーン(本人出演)は幼いころからの親友であった。幼いころから三人で良く遊んでおり、大人になって就職によって離れてしまってからも頻繁に連絡を取っていた。ある時、「久々に三人で会おう」という話になり、三人はヨーロッパ旅行の計画を立てる。2015年8月、仲良く三人で旅行を楽しんでいた彼らだったが、アムステルダムからパリに向かう高速鉄道の中で無差別テロ事件に遭遇することになる…。
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私は「本人出演」と聞いててっきり「主役の3人が本人なんだ」と勘違いしておりましたが、3人の家族から鉄道の乗客に至るまで、ほとんどの登場人物やエキストラまでもが「本人出演」なんです。多分プロの俳優よりも「本人」の方が多いと思います。
映画のラストでは高速鉄道でのテロリストに勇敢に対抗する3人が描かれますが、そこに登場する乗客も「本人」。テロリストに撃たれた男性も「本人」だし男性の奥さんも「本人」。乗客の恐怖の表情や撃たれた男性の奥さんが見せる悲痛な表情も、演技ではなく「事件のトラウマが蘇り、自然に出てきた表情」なんですよね。これが本当に凄かった。彼らにとっては、「演技」じゃなくて「追体験」なんですよ。鑑賞前に危惧していた、「素人の起用によって演技が下手で見てられない」って感じは全くありませんでした。完全に杞憂でした。
「鉄道のテロを防いだ一般人の話」というあらすじは把握していましたが、テロを描いたのはラスト15分くらいのもので、尺の大半は「三人がどういう半生を送ってきたか」にフォーカスが当てられた構成だったのは意外です。しかも、三人は特別優秀だったり波乱万丈な人生を送っているわけではなく、本当に「普通の人」だったのは驚きでした。軍隊に入っているので体格は良いですが、寝坊して訓練に遅刻したり課題を上手くこなせなかったりで、かなり「落ちこぼれ」として描かれているのも意外です。そんな落ちこぼれが多くの人命を救った。彼らを突き動かしたのは、「人を助けたい」という願望と恐怖に打ち勝つ勇気でした。
「クリント・イーストウッド監督作品」「実話を基にした映画」ということで、どうしても以前視聴した『リチャード・ジュエル』と比較して観てしまいましたが、こちらの作品は実話への脚色の仕方が実に素晴らしく、本人出演のおかげで実際に放送されたニュース映像が差し込まれる場面も全く違和感なく鑑賞することができます。
「本人出演させる必要性がない」というレビューも見受けられますが、私は本作の「本人出演」に大変感動した人間ですので、「必要性がない」というレビューには反対ですね。『アメリカン・アニマルズ』を鑑賞した時も感じたのですが、本人が出演することで生まれる「実在感」に私は興奮するんですよね。「実話を基にしている」っていう触れ込みの作品は非常に多いですが、プロの俳優さんが演じているだけだとやはりフィクションっぽさを感じてしまうんです。ただ「本人出演」の場合は、その事件や出来事が「実在した」という感覚が格段に強くなり、それが映画を観るうえでの没入感に繋がると思います。
非常に見応えのある素晴らしい作品でした。オススメです!