「”アメリカンヒーロー三部作”は、映画人としての矜恃」15時17分、パリ行き Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
”アメリカンヒーロー三部作”は、映画人としての矜恃
87歳にしてほぼ毎年、作品を世に出し続ける老匠クリント・イーストウッド監督の最新作。
近作「アメリカン・スナイパー」(2015)、「ハドソン川の奇跡」(2016)に続く本作は、またしても"事実に基づいた英雄"を描いており、これで"アメリカンヒーロー三部作"となった。しかしながら3作品とも"英雄の姿"が異なる。これは明らかにイーストウッド監督が意図したものに違いない。
映画興行の世界では、マーベル(ディズニー/MCU)の"アベンシャーズ"や、DC(ワーナー)の"ジャスティス・リーグ"のヒーローが、もてはやされているが、イーストウッド監督はあたかも"本物のヒーロー"を宣言しているようにも見える。これは映画人としての矜恃(きょうじ)なのかもしれない。
本作は、ユーロを走る高速列車"タリス"車内で2015年8月21日に発生したテロ事件、"タリス銃乱射事件"の映画化である。列車内でイスラム過激派の男が銃を乱射し、パニックが起きたが、たまたま乗り合わせた休暇中のアメリカ軍人2名と大学生1名が犯人を取り押さえ、大惨事を免れた事件である。
3人は幼なじみで、休暇を使った観光旅行中であり、事件の列車に偶然乗り合わせただけである。突然おとずれた緊迫の一瞬に、"そのとき、人は何をなすべきなのか"を問う。
テロ映画でありながら、テロ事件シーンはわずか10分だけ。あとは、幼なじみで親友同士のスペンサー、アレク、アンソニーの3人の出会いから現在に至る回想と、3人のヨーロッパ観光旅行のドキュメンタリーである。
お世辞にも映画的な題材とは言えない。本作におけるイーストウッド監督の凄さは、こんなにも映像的に地味な話を、感動作に持っていくワザである。
何者でもない普通の若者の、ありえない実体験を描くために取った手法は、主人公の若者3人、スペンサー、アレク、アンソニーを、なんとスペンサー、アレク、アンソニー本人が演じている。
巨匠の映画のメインキャストをプロの俳優ではなく、ドシロウトが演じているのだ。ところが94分という短めの尺で、計算されたカットやシーンメイク、脚本のセリフ、編集テクニックによって、ドキュメンタリー的なリアリティが生まれており、アマチュアの演技なのにそれをカバーして、感じさせない。
もちろん本職が軍人なので、肉体だけは屈強であるものの、イケメンでもなんでもない。
たとえは飛躍的だが、まるでシロウト素材を使いこなして、商業作品レベルに仕上げてしまう欽ちゃん(萩本欽一)の域である。老匠は達観すると、こういうマジックを使うのか・・・。
一方で、映像はできるだけドキュメンタリー的であるために、今回は手持ちカメラを含めた、普通の2K(フルHD)機材にアナモルフィックレンズを使い、普通のシネスコ映画に仕上げている。「ハドソン川の奇跡」のような6.5KカメラによるIMAX超解像度ではなく、画質的にはつまらない。
(2018/3/3/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ/字幕:松浦美奈)