「笑顔の値段」億男 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
笑顔の値段
『ハゲタカ』『るろうに剣心』の大友啓史監督最新作。
宝くじ3億円に当選した主人公が人生の立て直しを図るが、その3億円を親友が持ち逃げ。
親友の行方の手掛かりを追ううちに大金に翻弄されていく姿を描くドラマ作。
大金を手にした人々のとんでもない姿と、主人公とその親友の金では換算できない交流を
描き、結局何に人は金を使うのか?という部分が見えてくるエンタメ作になっていました。
楽しかったし、男2人の友情を描いた部分には胸も熱くなったのだけど、
個人的に大きな不満点もあったので、ちょい厳しめだがまあまあの3.0判定。
…
主人公・一男を演じた佐藤健は、いつもより地味で縮こまって見え、本当にその辺りに
居そうな普通の人に見えたし、他のエキセントリックなキャラを受ける形でうまく機能。
そして彼の親友・九十九(つくも)を演じた高橋一生が良い!
金の計算などの論理的な話や、練り上げられた落語をするときは淀みなく喋れるが、
自分の意思を示そうと懸命に喋るときは途端にどもってしまう変化が自然かつ滑らか。
掴み所のない雰囲気を漂わせているだけに、感情をストレートに伝える場面が心に響く。
彼ら2人の大学時代の屈託ない笑いと、大人になってからの疲れた表情の対比が良かった。
冗談と本音を高速でまくしたてる北村一輝、胡散臭さ全開の宣伝トークが笑える藤原竜也、
お金大好きだがちょっとハートもある池田エライザ、地味な主婦だが妙に艶っぽい沢尻エリカ、
それぞれのスタイルで大金に向き合うどの登場人物も、キャラが立っていて面白可笑しい。
万札ほいほい投げ散らし、パーティで競馬で怪しげセミナーでどんちゃん騒ぎに乱痴気騒ぎ。
札束を競馬につぎ込んだり、「1万円は0円です」という訳の分からない催眠商法に
参加させられたり、あんな人達とずっといたら誰だって金銭感覚おかしくなりそうである。
…
とはいえ主人公は、最初のパーティでは浮かれていたものの、思考は常に
借金3000万の返済にフォーカスしていたし、大金を手にしたばかりに転落
するような真似もしたくないと調べるような、割と現実的な人間である。
妻の心に気付くのは遅かったが、早い段階から彼は親友・九十九を通して
「お金の価値」に気付きかけていたという気もする。
一男と九十九の“ふたりで完璧”コンビ。
互いに互いの身を案じ、尊敬しあえる、そんな存在は当然金で買えるもんじゃない。
親友たったひとりのために、砂漠で打った最後の『芝浜』は、二人にとって
どれだけ高名な落語家の寄席より価値のあるものだったろう。
ものの価値とは何なのか? 人は金を何のために使うのか?
足元見られてボられても、それで親友が助かるなら適正な価格になることもあるし、
逆に、親友と楽しく話をできるのであれば、安い宿や飛行機でも良かったりする。
娘に買った自転車も、自転車が欲しいことを覚えてくれていたことが笑顔を生む。
お金は結局、自分や誰かを笑顔にするために使うのが一番なのかも。
まあ、高い骨董品やら大量の娯楽機材やらを買い漁って身を滅ぼしたら
元も子もないので、そこはもちろん生活を崩さないレベルでという話だが……
あれだけ万札が当たり前に画面に登場すると「あれ、なんでこんな印刷紙に
自分振り回されてんの?」という気分にはなってきます。こぉんな紙切れぇ~い。
…
しかし、本作での一番の不満点は……
黒木華演じるあの奥さんが清廉潔白すぎて、リアリティを感じられなかったこと。
だって奥さん3億円ですよ、さ・ん・お・く・え・ん!!
娘さんの学費やバレエ代を差っ引いても、余裕で一生食ってける額ですよ?
うまい棒3000万本分ですよ?(いらない)
愛想を尽かしかけてる旦那とはいえ、「三億円当たった、もう君たちも生活に
困らないよ」と言われて、あんな薄い反応見せる奥さんておるもんかしら?
そりゃあの奥さんが「3億円欲しい」とか言い出したら話のテーマ自体が台無しになってしまうけど……
他のエキセントリックなキャラより、彼女が一番非現実的に感じた。
そこを描くなら主人公が3000万の呪縛に囚われて妻子をないがしろにする様子を
もっと詳細に描くとか、3億円で心は揺らぐが断る、とかの場面がほしかった。
あと本作は、最終的には「お金を何に使うか選択する余裕がある人」の物語で終わる。
生活する為のお金に余裕があるかは言わずもがな人によりけりな訳で、例えば自分のように、
「毎月の収支は±トントンだが大きなトラブルに見舞われたら不安」という程度の人間には、
2億7000万円を自由にできる人間の言葉の説得力はやや弱めに感じてしまったかな。
…
以上! 色々と書いたが……
自分が何に金を使っているか、これからどう使うかを考え直す一助にはなる映画だったと思います。
来る11月は自分の父の誕生月である。無理しない範囲で何か買ってあげるかねえ、と。
<2018/10/20鑑賞>