「「嫌い」とは一回も言わなかったな」未来のミライ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
「嫌い」とは一回も言わなかったな
公開から評価が割れに割れた今作。過去の細田作品はかなりのストライクなので、楽しみな気持ちと不安な気持ち、期待と疑問が混ざりに混ざっての観賞でございました。
夫と私は仲良く行儀よく、妹を(正確にはおかあさんを)待つくんちゃんを見守ります。
待ちに待ったおかあさんは新生児の妹ばかり世話を焼き、くんちゃんとは遊んでくれません。拗ね拗ねで中庭に出るくんちゃんの前に「元王子」という謎の男が現れ、くんちゃんの感情を鋭く指摘。
その辺りで隣から「これはダメだ~!」と絶叫が!どうした夫?!
「こんな演出ボケッと観てたらわかるわけない!低評価になってしまうのも仕方がない!(盛大な嘆き)」
うん、落ち着け。とりあえず落ち着け!
私は好きだぞ?こういうの、スゴく好みだ。説明すっ飛ばしてのファンタジー展開、いっぱい考えることがあって最高じゃないか!
君もそうだろう?だから嘆いてるんだろう?落ち着きたまえよ。どうどう。
未来からやって来たミライちゃんと会ったりする度に「どうやら事件は中庭で起きているようだぞ?」「くんちゃんの感情が爆発することがスイッチか?」などと、ストーリーの謎を埋めていくのも楽しい!
誰かと出会う度に課題を解決するくんちゃん。誰かと出会う度にその人のバックボーンを知るくんちゃん。私たちが大人になるまでの間に、本当はこんな奇跡が起きていて、だから自転車に乗れるようになったりしていたのかもしれない。そう考えると楽しくなる。
私が一番姉心をくすぐられたのはやっぱり東京駅だ。散々「好きくない」と言っていたのに、自分1人の時はオロオロするだけだったのに、妹のピンチに気張らねえ兄貴がいるかよ!とばかりにミライちゃんを守ろうとする姿に熱くなる。
何なんだろうな?
時に邪魔で目障りな存在である妹や弟なのに全身全霊守ってあげたいと思うきっかけは。
全く覚えてないのが不思議だ。やはり大人になるまでの間に(略)
無事にお出掛け前の時間軸に戻ったくんちゃんは、もうお気に入りのズボンなんて履かなくても良いと思えるくらいに成長していた。
ミライちゃんは自力で移動しようとするくらいに成長していた。
おとうさんは前より優しくなった。おかあさんは前よりイライラしなくなった。
この映画は、みんな少しずつ成長している。それこそが大切な積み重ねであるかのように。
家族の絆が再生していく物語は、実写でもよくあるテーマだし良作も沢山ある。けれどこの映画は妹が生まれる「事件」を通して家族の絆が「生まれる」物語だ。これを4歳児を視点キャラに描くとなったらアニメ以外のアプローチはないと思う。アニメでしかなし得ない素晴らしい作品だと思う。天晴れ!
テーマ性が高いがゆえに娯楽度が低いのが低評価の原因じゃないでしょうか?冒険活劇と言うには少し物足りないのは認める。
夫も今作の作家性の高さに満足したようでございました。大人向けの映画、ってことなんでしょうね。