「細田守家のホーム・ムービー。この脚本にダメ出しをしてくれる人が周りにいないのか?」未来のミライ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
細田守家のホーム・ムービー。この脚本にダメ出しをしてくれる人が周りにいないのか?
4歳の男の子くんちゃんの、時を超えた冒険と出会いを描くファンタジー&ファミリードラマ・アニメーション。
監督/原作/脚本は『時をかける少女』『サマーウォーズ』の、日本を代表するアニメ監督である細田守。
未来から来たくんちゃんの妹、ミライを演じたのは『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』などの細田守監督作品にも出演している名優、黒木華。
くんちゃんのおとうさんを演じたのは『地獄でなぜ悪い』『夜は短し歩けよ乙女』の星野源。
くんちゃんのおかあさんを演じたのは『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』にも出演している麻生久美子。
くんちゃんのじいじを演じたのは『渇き。』『バケモノの子』のレジェンド俳優、役所広司。
くんちゃんが過去の時代で出会う青年を演じたのは『ガリレオ』シリーズや『るろうに剣心』シリーズの福山雅治。
第42回 日本アカデミー賞において、最優秀アニメーション作品賞を受賞!
第46回 アニー賞において、長編インディペンデント作品賞を受賞!
『サマーウォーズ』や『おおかみこどもの雨と雪』など、「家族」を題材としたアニメを作り続けている細田守。
今回もテーマはやはり「家族」。
とはいえ、親と子、もしくは兄弟や親戚という枠を超えた、もっと深く長い、謂わば「家族の歴史」を描こうとしており、これまでとは違う切り口へと挑戦している。
主人公はお父さんやお母さんに対して反抗的な態度を見せる、いわゆる「イヤイヤ期」の男の子。
家の本棚に仕舞われている、中川李枝子先生の名作「いやいやえん」がやけに目立つことからも、この作品は「イヤイヤ期」の男の子の成長の物語なんですよ、ということが見て取れる。
『クレヨンしんちゃん』にしろ『ポニョ』にしろ、アニメに登場する4〜5歳くらいの男の子は割としっかりものに描かれている気がする。本作のようにイヤイヤ期の子供を主人公に据え、その様子を真っ直ぐに描いたアニメなんて思い浮かばない。
そういう意味では非常にオリジナリティを感じさせる作品でもある。
因みに、中川李枝子は宮崎駿が姉と慕うクリエイターであり、宮崎駿の影響を強く受けている細田守が彼女の作品からインスパイアされたとしてもなんの不思議もない。
『時をかける少女』を彷彿とさせる、時間を超えた冒険という題材も細田守ファンにとっては嬉しいところだろう。
作画のレベルの高さは今更言うに及ばす。日本最高峰であることは明確で、特にくんちゃんの動きへの拘りには、監督の性癖すら感じられる。
原画には『カリオストロ』や『じゃりン子チエ』時代から高畑・宮崎コンビを支えて来た田中敦子女史や、鳥山明の影武者とまで言われた細田守の東映動画時代の先輩、中鶴勝祥などが参加している。
声優に関しては批判的な声も多いが、個人的にはそこまで気にならない。
例えばくんちゃんの声優が寺田心くんや、それよりももっと幼い子役だったとしても、くんちゃんというキャラクターがより良いものになったとは思えない。
小さな男の子の声優をどうするか問題は、考えれば考えるほどよくわからなくなってくる。
高山みなみや矢島晶子、田中真弓の声が少年に聞こえるかといえば全然そんなことない。
でもピッタリとハマって聞こえる。
アニメにおける少年声はリアルの少年声とは全く別のものな訳で、単純に男の子を使えばいいという訳ではないし、かといって成人女性なら誰でも演じられるかと言われればそんな訳でもないし…。う〜ん、分からん😕
そういえば、赤ちゃんミライの声は『クレしん』のひまわりと一緒かな?と思ったけど、本渡楓さん(『ゾンサガ』のさくらちゃん)だった。上手い!
イヤイヤ期の子供や、それに悩まされヒステリックになるお母さん、よそのお母さん達から"良い父親"に見られたいお父さんなど、人物描写にリアリズムを追求する姿勢は評価したい。
むしろあまりに家族をユートピア的なものとして描いている『サマーウォーズ』や『おおかみこども』よりは、本作の方が断然好きかも。
じゃあ本作が面白いのか、と問われれば「すげえつまらない😅」と答える。
もう一回観たいか、と問われれば全力で「NO😠」と答える。
よく出来た映画かと問われれば「全然ダメ〜🙅♂️」と答える。
もう壊滅的に脚本と設定がダメ。
この映画、めちゃくちゃプロデューサーが多い。
ラインプロデューサーだのアソシエイトプロデューサーだの、聞いたことのないプロデューサーまでいる。
こんなにプロデューサーが多いんだから、誰か一人くらい「この映画つまんないっすよ」って言わなかったのか?
それとも船頭多くして船山に登る的な、口出しする人が多すぎてこんなよくわからない話になってしまったのだろうか?
この映画の問題は、とにかく物語の求心力が弱すぎる点。
なんの事件も解決もなく、ただただ短いエピソードを5つくらい並べてみただけ。
全然知らないお金持ちの、というかお父さんの容姿を見てもわかるように(髭、眼鏡、髪型、机に向かって黙々と仕事をする姿etc…。この作品のお父さんって完全に自分のポートレイトを美化したものやないかい💦)、細田家のホームビデオを延々と観させられる。家でやれ家で。
山場が無いにも拘らず、クライマックスにオチだけは用意されており、こんなものを感動的な感じで観させられてもどう言うリアクションをして良いのかわからん。
大体くんちゃんが辺獄みたいな所に連れて行かれそうになった理由って、ただ青いパンツが嫌だったからだからね。こんな理由で辺獄に落とされていたら、世界中から子供がいなくなるつーの。
児童を主人公にした物語といえば、あずまきよひこの名著『よつばと!』が思い浮かぶ人も多いはず。
『よつばと!』だって別に物語に求心力がある訳では無い。基本的には日常のやりとりがダラッと続くだけ。
しかしそれでも面白いのは、キャラクターの魅力が強いことと、やはり短いエピソードを紡いでいく1話完結の物語だからだろう。
月刊連載の漫画で少しずつ展開していくからこそ、こういう子供の日常を描いた小さな物語は輝くのであって、100分の長編でヤマ無しの作品はやはり無理があるよ。キャラクターに愛着も湧かないし。
身内のイヤイヤ期だって辛いのに、赤の他人の子供のイヤイヤ期なんか観たくないって…😅
ポイントで観ていくと、1番上手くないと感じたのはひいお爺さんの扱い。
福山雅治演じるイケイケおじいは良いキャラしていると思う。でも、ひいおじいちゃんの若い頃と出会うのならば、現在のタイムラインでのひいおじいちゃんを観客に見せておかないと。
現在のヨボヨボおじいが、実は若い頃はめっちゃイケメンだった!という驚きが観客を楽しませるんだから。
子供の頃に読んでいた冒険漫画『REVE』。この作品でも主人公が過去へタイムスリップするんだけど、主人公のメンター的な禿げたじいちゃんが、若い頃はイケイケの勇者だったという展開が物語を盛り上げた。
『スター・ウォーズ』だってそうで、まずヨボヨボのオビ=ワンを観客が知っているからこそ、『ファントム・メナス』で若いオビ=ワンを観るとそれだけで興奮しちゃうという効果がある。
この王道展開は、ベタだけどやっぱり抑えておくべきものだと思う。
細かいことを言えば、新築のお家の庭に生えている樹が一族のインデックスになっているという点があまりにも飲み込みづらい。『サマーウォーズ』みたいな旧家の庭に生えている樹だというのならいざ知らず。
すごく細かいことを言えば、初めてくんちゃんが不思議な現象を体験する場面。具体的に言えば謎の王子様と出会う場面。そこで王子がくんちゃんに向かって「ひざまずけ」といって、くんちゃんがその言葉に従うという描写がある。
…イヤイヤ、4歳の男の子が「ひざまずく」なんて言葉を知っているわけがない💦
児童ものを描く場合、こういう細かいミスをしちゃうとそれだけで「ああ、この物語で描かれる子供は所詮監督の都合で動くコマなんだな」と思って冷めてしまう。宮崎駿や高畑勲なら絶対にしないミスだと思う。
あと、お雛様を片付けると言うエピソードで、未来のミライと原作のミライは同時に存在出来ないと言うことが描かれていた。同一のタイムラインに同一人物は2人存在し得ないと描いているのに、くんちゃんは自分の未来の姿と出会ってしまう。
これは設定上の大きなミスですよね。ただでさえ荒唐無稽な設定を扱っているんだから、作品内のルールくらいは守ろうよ、SFなんだから。
せっかく『未来のミライ』というタイトルにしたのだから、現在のくんちゃんと未来のミライがそれぞれ反抗期を迎えており、2人が家族の歴史を遡る冒険を行うことで、それぞれが成長し家族の絆を再発見する、みたいな王道SFファンタジーにしてしまえば良かったのに。
題材は良いだけに勿体ない、と感じてしまった。
正直、細田守には脚本家としての才能は乏しいと思う。
日本アニメ界では、宮崎駿にしろ高畑勲にしろ富野由悠季にしろ庵野秀明にしろ押井守にしろ、脚本も書ける監督が尊敬を集めて来た。
でも本来監督の才能と脚本の才能は違う訳で、どっちも出来なくちゃいけないという決まりはないんだよね。
アニメでは無いけど、リドリー・スコットやデヴィッド・フィンチャーは脚本は人に任せて監督に専念しているし、ピクサーでは複数の脚本家が物語を作っている。
細田守も他人に脚本を任せて、自分は監督に専念した方が良い作品を生み出せると思うけどなぁ…。
細田守といえば、『ハウルの動く城』の監督を制作途中で解任されるという事件があった。
ジブリの鈴木敏夫プロデューサーも酷いことするな、と思ったものだが、もしもこんな出来の脚本なりコンテなりを提出していたとするならば、解任も已む無しだわな。
全然関係ないのに鈴木敏夫の株が上がってしまう、そんな映画でした。はい。
本作は正直アカンと思う。とはいえ、アニメファンとしては細田守作品には期待してしまうし、今夏公開の新作だって多分観るだろう。次こそは頼むで!
親子や家族のナラティブを描くのであれば、子供がいない人でも感動出来るものでなくてはいけないと思います。それが出来ていないのであればその作品は失敗であると思います。
現に親でなくっても『トトロ』を観れば「子供っていいな〜😌」と思いますし。
本作は残念ながらそれができていない、というのがわたし個人の感想です🙇♂️
ドジョウ眉毛さん、コメントありがとうございます😊
「親じゃない人にはこの映画はわからない」という意見がよく目につきますが、自分の考えは少し違います。
そもそも映画とは「自分とは全く違う境遇の人間の人生を追体験すること」であると思っています。だから自分とは全く違う境遇である、某ボクサーや某ジェダイのストーリーにも感動出来るのではないでしょうか。
『時かけ』や『サマーウォーズ』のような面白さがありませんでしたよね。
せっかくタイムトラベルしてるんだから、もっと面白くできたはず。結局、SF部分も回想シーンと同じ扱いだったような・・・