「もう一捻りあると思ったが、普通に良い作品。」未来のミライ ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
もう一捻りあると思ったが、普通に良い作品。
女子高生、SF、家族、バケモノなど細田守監督作品の要素がてんこ盛りの本作。細田守監督作といえば、少し変わった家族・共同体を描き続けていて、その人間関係の中の秘密や真実に触れることで、主人公が不思議な体験や旅をして成長して、また同じ場所に返ってくるようなストーリーをずっと作っているような気がします。
基本的に主人公が成長することで、自分や自分の周りの世界のありのままを肯定するような前向きなストーリーを一貫して描いているので、観た後は充実感に満たされます。なので細田守監督作は好きでした。
本作「未来のミライ」は少し変わったオープニングで、始まったと思ったら山下達郎の曲が流れ、また、同じオープニングショットが繰り返される。あれはなんでだろうとずっと考えていたのですが、物語の後半でようやくこの映画のテーマというのがわかり、構造がわかり、メッセージがわかります。予告で観ると、もう少しSF的にひねった設定になるのかなぁと予想していましたが、どストレートに家族の話でした。
ひいおじいちゃんがもしあの時諦めていたら・・・。
ひいおばあちゃんがもしあの時優しくしていなかったら。
もしお母さんが猫が好きなままだったら・・・。
今の自分という存在はそんなささいなことの積み重ねで出来ている。何か一つでも欠けてはダメだった。
嫉妬をしたり、妹やお父さんやお母さんを嫌いになったりするが、その全てに意味があり、大切であり、未来に繋がっていく。
細田守監督作の現実に対する全肯定ぶりは、やはり一貫していた。
「この世界の片隅に」を意識しているのかなぁという演出(音楽も)を感じました。本作もあの作品と同じように、生きていることって素晴らしいと思えるようなテーマだと思うのですが、ここがセリフで説明されちゃったのが残念。
空からの戦場の描写(これも「この世界の片隅に」っぽい演出。)でひいおじいちゃんの映像が流れた時には「あぁ、この映画で語りたいことはそこか!」と感動したのですが、未来ちゃんがセリフで補足してしまった。そこはヘタに説明付けないで観客に委ねて欲しかったなぁ〜。まあ子供向け作品だから親切設計ってことなのか。
前半は正直かなりかったるいです。あとはギャグが寒くて少し苦痛だった(笑)あまり無理してギャグをやらない方がいいと思う。
ひな人形を片付けるということだけにものすごい時間を割いているのに、後半のテーマとなる一連の流れが短くてバランスが悪い。もう少し深く後半を楽しみたかった。
クンちゃんの行動には終始イライラしましたが、それも狙った演出なのかなぁと思いました。子供ならではの重心移動を感じる歩き方や、背中をまるめた時の可愛さ、急にヒヤッとする行動を取る怖さ、よく描けていると思いました。
4歳児が主人公というのは、大人びた行動をしてもおかしいし、リアルな4歳児にしたらストーリーが進まないだろうし、難しいバランスだったと思います。声優の演技は私は良いと思いました。あれがリアルな4歳児だったらあざと過ぎて見るに堪えない演出になっていたと思います。