劇場公開日 2018年5月25日

  • 予告編を見る

「ゲティ家の一族と本作の、金とスキャンダル」ゲティ家の身代金 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ゲティ家の一族と本作の、金とスキャンダル

2018年10月24日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

怖い

興奮

知的

1973年に起きた石油王で大富豪の孫の誘拐事件を描く実録サスペンス。
作品そのものより作品にまつわるスキャンダルやトラブルばかりクローズアップされて余りに不憫。
しかし作品自体は、リドリー・スコットらしい骨太で見応えあるものとなっている。

非常に有名な誘拐事件らしい。
デンゼル・ワシントン主演『マイ・ボディガード』(奇しくも監督は亡き弟トニー!)の原作『燃える男』はこの事件を着想にしており、監督ダニー・ボイル×ドナルド・サザーランド×ヒラリー・スワンク×ブレンダン・フレイザーでTVシリーズ化された事もあるとか(これはこれで見てみたい!)。
が、恥ずかしながら全く知らず…。
事件の概要を整理しながら追っていくと…

1973年。石油王ジャン・ポール・ゲティの孫、ジャン・ポール・ゲティ3世がローマで誘拐される。
誘拐犯の身代金要求額は、1700万ドル。
総資産50億ドルと言われる世界一の超富豪にとって微々たる額だが、思わぬ事態が。
ゲティは孫の身代金支払いを拒否する…。

超富豪でありながら守銭奴…いや、ズバリ、ドケチだったというゲティ。
何よりも己の利益優先。金!金!金!…アンタはカネゴンか!
孫の命と引き換えの身代金なのに、無駄遣いの余分は無いとまで…!
金持ちほど金が惜しいとはよく言う。
ゲティの言い分もまあ分からんでもない。
彼には他にも孫が大勢居て、ここで身代金を払ってしまえば、他の孫たちも身代金目的で誘拐される恐れがある。
卑劣な誘拐犯どもには屈しない!
それに、彼とて孫の身を案じてない訳ではない。
元CIAの交渉人、チェイスに孫の救出を依頼するのだが…

やはり端から見れば、超金持ちなのに孫の身代金も払わない冷たい祖父。
気が気じゃないのは、3世の母、アビゲイル。
息子が殺されてしまうのでは…と危惧し、ゲティと対立。
ゲティがアビゲイルを煩わしく思うのは、息子2世の元妻で、今はもう“一族”ではないから。
金と同じくらい“一族”を重視するゲティ。
アビゲイルにとって難敵は、息子を誘拐した犯人たちより、元身内という信じ難い現実…。

ゲティに翻弄されるのはアビゲイルだけではなく、誘拐犯側も。
ゲティに身代金支払いの意思が無い事を知ると、身代金の額を下げてまで要求。さらには、3世の身柄をマフィアに売却。
果ては孫が企んだ狂言誘拐説まで飛び出して、ゲティは財布をますます固くする。
そんな時、3世の身に遂に危害が。
3世も決して全うな青年ではなく、放蕩生活を送る世間知らずのボンボン。身を襲った災難は気の毒だが、これも超金持ちの孫として産まれた事が運の尽きなのか…。
アビゲイルの執念もあり、ゲティはようやくやっと身代金支払いに応じる…が、ある条件付きで。
金が絡むと文字通りのモンスター級の欲深さと傲慢さ。

誘拐犯とゲティの間で板挟みになる母親という難役を、ミシェル・ウィリアムズがさすがの巧演。
マーク・ウォールバーグも交渉人役で抑えた好演。
見る前は、ウォールバーグがいつもながらのタフで男臭いイメージでもっと活躍するのかと思っていたら、実質主役はミシェル。
なるほど、それで例の問題は…指摘されても仕方ないかもしれない。

本作最大の話題は何と言っても、クリストファー・プラマー。
公開直前に某俳優のスキャンダルが発覚し、全シーンカット&降板。
急遽の代役となるも、僅か数日で再撮影をこなし、本当の意味で本作の救世主となっただけではなく、アカデミー助演男優賞ノミネートというオマケ所ではない離れ業まで披露!
本作製作陣は、この名優に頭が上がらないだろう。
某俳優がどう演じていたかも気になるが、結果的にプラマーで良かったのでは。凄みと圧倒的存在感で“マネーモンスター”を演じた。

話は二転三転と言うか、予断を許さない展開で、飽きさせはしない。
リドリーの演出もさすがの確かな手腕でスリリングだが、如何せんちと地味な印象は否めない。
もっとエンタメ色のあるポリティカルな内容を期待すると肩透かしを食らい、好みは分かれるかも。

本作はあくまで事件の経緯を追うハラハラドキドキのサスペンスと言うより、勿論それも含めつつ、事件の真相と顛末、その背後のスキャンダラスな人間模様が焦点。
金とスキャンダルの、ゲティ家の一族。

この誘拐劇さながらの本作自体の“金とスキャンダル”の問題については…
いや、もう何も言うまい。

近大