ラブレスのレビュー・感想・評価
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忘れることはない映画に
いい意味でも悪い意味でも忘れることはない映画に。映画としては素晴らしい。「父帰る」も観なければと決意。
ただ想像してたよりもロシアは経済的にはるかに裕福で、精神的にかなり貧しいんじゃないかと疑う。現状のロシアを知らないが、無関心というのはつくづく罪だと改めて思う。
唯一、立ち聞きしていた子供の嗚咽と家出だけに熱を感じ、他の人には一切、体温を感じませんでした。
捜索隊のリーダーは元KGB?あの動きは使命感からの高揚としか思えず。
まさにタイトルの通り、愛はどこにもありません。そしてホント誰も救われない...
犠牲になるのは子供
愛を持てない、心の欠損したロシアの夫婦を描いた作品。
自分だけが幸せになりたいというエゴにより、夫婦はともに相手を非難するばかり。
予告編にあったように、「あんな息子は要らない」と押し付け合い、「あの子が失敗の原因」と罵りあう夫婦=両親の喧嘩を聞いてしまった12歳の息子アレクセイは、声にならない嗚咽のあと、失踪してしまう。
事件の多いロシアでは警察が対応できず、ボランティアによる捜索が始まるが、その間も夫婦は喧嘩ばかり。
しょせん愛がない人たちなので、子供のことはそっちのけで新しい愛を求めて別のパートナーとそれぞれくっついていくが、そこでもやはり愛がない。
快楽を求めるセックスばかり。
(なんかこの作品、延々と喧嘩とセックスシーン、+で全裸、下着姿ばかりという印象)
「人は変わらないし、ダメな奴はどこまでもダメ」と突き放しつつ、「身勝手な人間の犠牲になるのは、良心を持った善なる人間である」という、強烈な批判が背骨のように作品を貫いている。
観てて心が痛くなった。
舞台はロシアだし、ロシア・ドイツ・フランス・ベルギーの共同制作であるが、長回しをはじめとする心象風景の「間」が、すごくフランス映画っぽかった。
愛なき世界の不毛な人びと
ロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の作品は、「父、帰る」をはじめ、愛なき人々の行動を冷ややかに描いた作品が多いが、今作はその冷徹な視線が頂点に達したと言っていい冷ややかっぷり。息子が行方不明になったというのに、離婚協議中の夫婦の他人任せの行動、捜索に関わる警察、お互いの愛人、ボランティア団体、全ての大人たちが淡々としていて愛が感じられない。あまりにも不毛な人びとを、冷ややかな映像で淡々と描くから、こちらの心も冷えてしまう。鑑賞する人を選ぶ作品ではあるが、この徹底ぶりはやはり凄い。タイトルに偽りなし、無関心な愛なき世界を、冷え切った夫婦を通して描く。ウクライナ侵攻を挟み、ロシア社会への警鐘とも捉えられる。ラストの夫婦のお互いの行動と、行方不明になった息子の存在した証明が虚ろに揺れるシーンがあまりにも虚しい。掛け値なしの傑作。
欲望と憎悪と駆け引きだけ
この作品を観る数日前に「レッドスパロー」を観たので、アメリカから見たロシアとロシア人みずから見たロシアの違いがよく分かった。
ロシア人の生活はアメリカ人が考えるほど政府に束縛されておらず、何を考えても、どこに行って誰に何を喋っても大丈夫である。もはや祖国という言葉も、その概念さえも意識から失せているように見える。いまだけ、自分だけよければいいという精神状態はロシアにも蔓延しているようだ。
明日のない親に育てられる子供は、未来について何も描けない。自分をなくしてしまうこと、いまという時間を抹殺することだけが彼の取りうる唯一の行動である。
親から愛情を受けずに育った子供は人を愛せない人間になる。人に対する思いは欲望と憎悪だけだ。憎悪し合う夫婦。欲望を満たすだけの愛人。他人の精神に無関心で、ただSNSの中で虚栄心を満たしていく。いなくなった息子を探すのは、世間体のためだ。見つかろうと見つかるまいと構いはしない。しかし死なれていると困る。生きているうちに見つかるか、それとも見つからないかのどちらかだ。
見つかったのは息子だったのか。そうだと認めれば自分たちは息子を見殺しにした親になる。DNA鑑定は当然拒否し、子供はいつまでも見つからないままにしておく。罪の重さに戦くが、それでも子供を愛せないのは仕方がない。子どもだけではない、誰のことも、自分のことさえも愛せないのだから。
役者たちはこうした精神構造を卓越した演技力で表現する。愛人が産んだ子供も、子供には変わらない。やはり愛せないのだ。人を愛せない人間は世界中に存在する。そして増加の一途をたどっているように見える。世界から優しさが消え去れば、欲望と憎悪と駆け引きだけの世の中になる。この作品はその警鐘なのかもしれない。
計算され尽くした演出と脚本。
この映画、すごいです。
少年、母親、父親…とにかく登場する人物の心理描写がものすごく繊細。言葉だけじゃないところ(むしろ言葉少なめ)で、気持ちを語ってくる。今、この空間で起こってることの全てを言葉以外(カメラの構図とか視線、仕草)で語ってくる。言葉にしないから陳腐にならない。すごく好き。
後味、悪っ。
結末は、予想ができた。
そうなるだろう、そうなるのが観客を一番不愉快にさせるラストだろう、という描き方。出てくる大人がクズに見えるのに、本人たちはいたって平気な顔。育児放棄でスマホに夢中の母親、セックスが好きで子供に感心のない父親。どちらも離婚も済んでいないのに別々のパートナーを隠すこともない。それに、市民ボランティアの規律性が、ロシアの国家というものを暗示していているようだ。この映画を傑作というとするならば、あまりにも現実的で薄気味悪いからだろう。しかも、これは現代ロシア社会の話ではなく、日本であれ同じような状況に置かれている少年は多いはずだ。
他人ごとではないよ、日本人。
思わせぶりな映像で想像を刺激
サスペンス要素が強くて、激しいセックスなど見せつけられるけれど、美しい映像と比較的静かな音づくりな為か、心地よさとともに前半はかなり睡魔におそわれてしまった。それ故に、話は半分理解できなかったようには思ったけれど、徐々に話が盛り上がっていく巧みな演出に、いつの間にか作品にハマっていた。
見えそうで見えない結末、解決しそうでなかなか終わらない展開、そこに差し込まれるあらゆる意味の無いような含みのある映像が見る者の妄想を激しく刺激するように思えた。
一見現代批判かのような作品とも思えるけれども、現代的な事柄を巧みに利用した推理的映画に見えた。とはいえ明確な犯人探しの映画ではないけれど…
ラブレス
個人的には「別離」以来、真に傑作と思える作品を久々に観たと感じました。特に近年になるにつれて更に強まっている、自分以外の者を愛せない現代人を描いて見事だと思います。
ただし、内容は暗いといえば暗く、救いも用意されていませんので、単に娯楽として映画を観たい方には全く薦められません。
作品のメッセージ性に括目、現代ロシアの家族問題を抉る社会派佳作
離婚協議中の両親が子供を押し付け合う。それぞれには新しいパートナーがいて、子供が邪魔だから。親たちのやり取りを聞いてしまった子供は自分が愛されていないことを知り絶望し失踪してしまう。両親は慌てて市民ボランティアの力を借りて捜索を試みるが... 目の前の不幸・不都合を他人のせいにするばかりで、新しい生活にchangeさえ出来れば自分も変われると信じているこの大人達の何と幼稚で無責任なことか。そんな彼らにはいつまで経っても満足できるような幸せは訪れないだろう。この作品にはこんな鋭いメッセージが込められていると感じました。ところで行方不明になった子供は結局見付かったのでしょうか?作中では必ずしも明らかにはなっていませんが、もし見付かっていたのだとしたら、観たあなたもきっと背筋が寒くなるはず。
単調、不快、虚しい作品。
不穏なピアノの打鍵音で、作品が始まる.ロシア映画であるためか作品が終始「寒い映画」。会えば口喧嘩の絶えない完全に終わっている夫婦。それに耐え切れず両耳を抑える一人息子。冒頭、学校の校舎から一斉に人が出てくる場面があり、そこは何か作為的なものを感じた。作品は、ひたすら淡々と流れる、退屈すぎるとも言える。息子が急に行方不明になるあたりから、作品は多少盛り上がる。夫も妻も自分本位のことしか話さず。「この二人もう駄目だな。」とつくづく思い鑑賞した。息子の捜索に奔走するボンランティアの集団行動には凄さを感じ「そこまでやるか。」という印象を受けた。
最初の方で、息子が赤白のテープで遊んでいるシーンがあり、それを木の枝に括りつけたのか?引っ掻けてしまったのかしらないが、この場面が、話の前後と何の脈略もなそうに見えたが、あの場面が、かなり重要な場面であったのだろうか?
身元不明人遺体で、遺体が包まっているビニルを剥いだときの妻が悲鳴ともとれる一言。
最後、別々の人生を歩むのだが、この男と女は人間としての面白さがない。映画としては、常に単調で無味無臭な作品であった。最後の不穏なピアノの打鍵音が虚しく、終わり切る前で退館した。
あまりにロシア的な。
切っ先鋭い刃で胸を抉られた感じで、まだ血が流れてる気がします。
徹底的にロシア的な映画だと思いました。私の中でのロシア的とは、世界と個人の魂がとても近くて、非常に簡単に日常生活の中に哲学が入り込んで違和感がないような感じをいいます。ラスコーリニコフがナポレを語りながら、金貸しの婆さんを殺すみたいな。会社でいいおじさんたちが、「世界は滅びると思う?」「滅びると思う」っていう会話が日本であるとは想像できませんが、ロシアではなんの違和感もない。
冒頭のピアノの連打と映像があまりにも印象的で、ずっと心に残っていたら、最後に戻ってきました。どうやらペルトの曲のようでした。映画の内容にあまりにもシンクロしていて、関心しました。
希望は残されているのか?見る人に委ねられているのだと思いました。
逃避
離婚話が進む両親のどちらも子供を引き取るつもりはないという夫婦喧嘩を聞いてしまった12歳の息子が行方不明になる話。
ヒステリックで常にスマホをいじってばかりの母親と、自分のことばかりで家庭に無関心な父親、更には共に再婚が決まっているという状況で家の中には愛情の欠片もみられない。
子供が居なくなってからの言動も後悔の念が薄く上辺な感じがして救われない。
失踪するまでの状況説明1時間とひたすら子供を捜す1時間、エピローグ2~3分という流れで概ねあらすじに書かれている通り。
重さや救われなさは良いけど、変化が乏しく結局結論も委ねられるし、気付きも目覚めもなし。
内容の割に長過ぎる。
最も現実的な「終末」
荒廃した社会主義社会は、色の無い凍てついた世界だ。効率性を重視した均質で無個性なアパートに住む彼らは(登場人物全員)誰も本当の意味での愛情を持ち合わせていない。
SNSに取り憑かれ、自らにしか興味を抱けないアバズレ(もはや母ではない)。
禁欲主義の教条と矛盾する女癖の悪い男は自分自身の保身のことばかり考えている事勿れ主義で、非人間的な日常を機械的に送っている。
警察は忙しさにかまけて親身に相談してくれない。ボランティア団体は、自己陶酔の偽善者集団だ。学校の先生は捜査に対する面倒臭さを心に秘め、会社の同僚は本当かも分からない無意味な冗談を言うだけの人間だ。
世界の荒廃を描いたディストピア作品は、数多くあるが、この作品もある意味で「終末の瞬間」を描いた作品といえる。愛のない世界で待ち受けるは形だけの幸福と虚無感だ。マヤ暦の終末は既に到来していたとでも言うのだろうか。
社会主義国のロシアにおいては非人間性がもたらす世界の終末が容易に想像できるが、人間社会の荒廃とは世に蔓延る紛争や内戦だけではない。インターネットがますます普及し、更に合理性が追求されるようになる社会において、それは人間を内部から蝕む。これは全く他人事ではなく、ディストピア映画では最も現実的で、ロシアに限った話ではなく、今すぐにでも起こり得るのが恐ろしい。
最も人間的な人物が、何の趣味もない息子、或いは自らの家というシェルターに閉じ籠った祖母だった事は現代社会に対する冷徹な皮肉だ。
ラストでは、息子を失った(か否かは最早どうでも良く)彼らが心のどこかで無意識に不幸から目を背けてしまう様子が描かれるが、それは、子供の死をもってはじめてほんの少しだけ人間性を取り戻したという希望なのだろうか。
間違えた誰かはいるのか
「これ誰が悪いの?」っていうと主要登場人物全員が少しずつ悪い感じがすんだよね。
じゃあ、そんなに悪いのか?っていうと、みんな幸せになりたかっただけなんだよね。
「じゃあ、しょうがねえか」って言うと、そうはならない。いろいろ考えちゃうね。
主演の女優さん綺麗で良かったな。役としても、徹底して自分の幸せを優先する判断も良かった。
生活は裕福になっても心は貧しい
これは、いろいろと考えさせられる映画で面白かったなぁ
現在のロシアの中流家庭の夫婦事情が描かれている作品
ロシアの家庭事情を見る機会があまりないので、彼らの生活を見ているだけでも面白かった
2012年10月のサンクトペテルブルク
ボリスとイニヤの夫婦は、それぞれに新しいパートナーがいて一日も早く離婚したいと考えていた
彼らには、12歳になる息子アレクセイがいるのだが、互いに引き取ることを嫌がり、口論になってしまう
そして、アレクセイ本人が「アレクセイを押し付け合う両親」の口論を聞いてしまい…
ここで描かれるのは、包み隠すことのない、夫婦の赤裸々な本音
二人とも自分のことしか考えていないエゴイストで
二人の間にいる子供のことよりも、自分と新しいパートナーとの生活の方が大切
そして、そんな夫婦の元から息子のアレクセイが失踪してしまう
そこから、物語は一気にサスペンス色が強くなっていく
私は、常にいがみ合う夫妻を見て、長い冷戦の間、貧しい生活を強いられた国民は、心も貧しくなってしまったのではと感じた
それは主人公夫妻だけでなく、社会生活からも感じられる
夫が勤務する会社でも
「上司の言うことを聞かないとクビになる」とか「ランチは全員同じ物を食べる」とか、共産主義の名残がそこかしこに残っている
その反面「家出人捜索のボランティア」が「警察より優秀」であり、警察は日々起きている事故や犯罪を追うので手一杯だというのも、荒んだ世の中を表しているのであり、
家出人捜索ボランティアの組織化された手際の良さは、経験値の高さ、アレクセイのような家出少年の多さを感じさせる
そこから、ロシアで起きている犯罪の多さは、共産主義がもたらした負の遺産なのではと感じた
彼らは自由な生活を知らず、いきなり抑圧を解き放たれた開放感から、欲望のままに生きるようになってしまったのではないか
そして現在、ウクライナが東西に分かれる内戦が起きており、ロシアの国民は、そのニュース映像にかつての自分たちの姿を見るが、まるで他人ごとのような気分で、それを眺めているのである
愛の不在が連鎖
身勝手で愛の無い人に幸せはない、という戒めを感じました。夫婦、親子など登場人物間に愛は不在。両親の離婚を物陰でコッソリ聞いて息子が涙する冒頭の短いシーンは、悲しみに溢れていて心に残ります。大人に振り回される子供が本当に可哀想です。家庭内、会社、失踪した子供の捜索場所など、まるで自分自身がそこにいるような臨場感がさすが。映画全体を包む冷たくやるせない空気を背景に、登場人物のストレス・苛立ちがヒリヒリと伝わって来ます。悲惨な結果にならないように祈りながら観ずにはいられません。結末は各自で考える様な形になっています。深ーく考えさせられる映画でした。
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