「異次元レベルの映像密度! 自分の技(アート)を見つけ出せ」スパイダーマン スパイダーバース 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
異次元レベルの映像密度! 自分の技(アート)を見つけ出せ
2019年アカデミー賞で個人的に一番のサプライズ
だったのが、『インクレディブル・ファミリー』
『シュガーラッシュ:オンライン』を抑えて
本作が長編アニメ部門を受賞したことだった。
昨年11月公開『ヴェノム』のエンドロール後に本作
のフッテージが流れたが、実を言うとそれを観て
僕は「期待できないな」と考えていたんである。
以下は当時の自分のレビューから引用――
“僕がアニメに関心が薄いというのもあるのだろう
けど、 本編とテイストが違いすぎるしCGアニメ
のクオリティもイマイチだったので正直ガッカリ
したというのが本音。”
あ、書いてますね。書いちゃってますね、ハイ。
”クオリティがイマイチ、正直ガッカリ”って。
あいた、痛い、ごめんなさい、投石しないで。
言い訳だが、画もノリも『ヴェノム』と違い過ぎたし
妙にフレームレート(言うなれば動画の滑らかさ)
の低い映像が見辛いと感じたり、スパイダーセンス
(スパイディの第六感)を ww線で表現してるのも、
実写スパイディしか知らない向きからすると
なんや格好悪くないかねこれと感じてた訳です。
けどやっぱり、最初から最後まできちんと観ないと
映画って分からないものだと改めて戒めました。
ナメてかかって本当に申し訳ない。本作、
目を回すほど野心的なアイデア満載の快作でした。
...
超人的な力に目覚めたもののそれを使いこなせず、
ヒーローとなる覚悟が定まらない主人公マイルスの
成長譚が物語の軸だが、それだけでなく中年ピーター
を中心とした各キャラの成長も描いた密度の濃さ。
そして思考をブッ飛ばす勢いで炸裂するビジュアル!
開幕から終幕までノンストップの映像体験である。
コミックのように心の声や擬音を文字で表現したり、
画面分割で引き/寄りの画を同居させたりは序の口。
陰影をインク印刷のドットのような柄で表現したり、
実写映画的な密度の画の中に一瞬アメコミ的な極端化
された画(輪郭を強調した画やビビッドな色合いで
ベタ塗りした画)を挟み込んでインパクトを強めたり。
他にもメイキング映像等によると、背景のピンぼけを
色収差(赤/青/緑の光学的な色ズレ)で表現したとか、
映画は通常24コマ/秒で投射される所をわざと12コマ
に落としてパラパラ漫画のような効果を狙っただとか
(冒頭で書いた低フレームレートの理由ですね)、
1シーン1シーンに一体どれだけのアイデアを
ぶちこむのかと目眩を覚えるほどの濃さ。なのに、
そこにそのまま猛速チェイスやカメラワーク自在
の格闘アクションまで大量投入されているのである。
次元を越えたスパイディ達が登場する本作だが、
本作自体が印刷物とアニメと実写という3つの次元を
目まぐるしく行き来している。こんなとんでもない
芸当、およそ3DCGアニメでしか表現不可能だろう。
クライマックスはもう驚異的としか言い様がない!
重力方向無視で展開される5つ巴の連弾アクション!
躍動するスプラッシュアートの如く画面を埋め尽くす極彩!
その5つの次元の間に生じる真空状態の圧倒的映像空間
はまさに色彩的砂嵐の小宇宙とちょっと何言ってるか
よく分からなくなるほどの映像トリップ体験!!
...
5次元から集結したスパイディ達も、個性豊かなだけで
なく、アニメのスタイル自体が異なるという凝りよう。
ハードボイルドな雰囲気のスパイダーマン・ノワールは
往年の犯罪サスペンス映画のような白黒リアル調。
未来世界の女子高生ペニー&スパイダーロボは
ジャパニメーションチックにお目々キラキラ!
親愛なるブタさんことピーター・ポーカーは
カートゥーン調でもはやネタとしか思えないが、
実はカートゥーン世界だけに許された質量保存則
ガン無視の反則技を敵に叩き込む隠れ猛者である。
唯一無二のスパイダーガール・グウェンもクール!
だが彼女も大切な人を失くし、他人に正体を明かせず、
独りで闘い続けなければならない重責に耐えている。
そんな彼女にとって、同じ運命を背負ったマイルズや
他の仲間との出会いはきっと新たな希望だったろう。
自分の痛みを理解してくれる人が傍にいると思える
だけで、痛みに立ち向かう勇気が湧いてくるものだ。
自身の人生にうんざりしていた中年ピーターも、
マイルスの師として彼の成長を目の当たりにする内、
ヒーローとして、そして人間として再起してゆく。
二度と愛する人に会えないかもしれないという境遇に
陥ったことで彼は過去の選択を後悔したのだろうし、
マイルスが最後に見せた、責任から逃げずに
闘い抜く勇気も彼の背中を押したんだと思う。
”大いなる力には大いなる責任が伴う”という言葉は
これまでのスパイダーマン作品で幾度も語られたが、
この作品ではその責任を理解してくれる仲間と出逢い、
また一歩成長する彼らが描かれている。
そして主人公マイルス。
力を手に入れたばかりの彼はまだ十分に力を扱えない。
既にヒーローとしての経験を積んだ先輩スパイディ達と
自分を比較して自信を得られず、戦う決意が固まらない。
だが彼には、透明化や電流を操るなど、
他のスパイディにはないユニークな能力がある。
「輝いてるおまえに期待を寄せすぎてた。
おまえはどんな道を進んでもいいんだ。」
父の言葉でマイルスは、他の先輩の真似は出来ずとも、
自分には自分のアート(技)があると気付いたんだろう。
黒地のスーツに赤い蜘蛛のスプレーアート。
大好きだった叔父が認めてくれた”自分”を胸に闘い
へと向かうクライマックス手前の場面は猛烈に熱い。
誰もが自分にしかない力を持っていて、
誰もが自分にしかない責任を負っている。
避けられない難事を前にして必要なのは、
自分に何が出来るか考える知恵と逃げない勇気。
...
最後に不満点やら気になった点やら。
攻めまくった映像表現+詰め込みまくった内容
ゆえ、と・に・か・く目まぐるしい(特に前半)。
前述の12コマ/秒という凝った表現も、ずっと
観続けてるとけっこう目にしんどいものがある……。
まあこれは不満点というよりは僕の動体視力の限界か。
不満点というより個人差と捉えていただきたい。
(アカデミー賞選考員の方々って平均年齢50代以上と
思うが、よくこんなアグレッシヴなの選んだね……)
あとはマイルス・ピーター・グウェンを除いた他の
スパイディたちの活躍やキャラはもっと観たかったし
(内容詰め込んでるにしては描けてる方とは思うが)、
仇敵プロウラーがどういう経緯でキングピンに与する
ようになったのかももっと描いてほしかったかな。
マイルスの決意にも大きく関わる部分だと思うし。
...
だけど、いやはや、度肝を抜かれる出来でした。
大ヒット&評判を受けて続編製作も決定だそうな。
あの5次元スパイディにさらに新メンバーってこと?
まあね、今回みたいな映像&メンバーと、超タフな
メイおばさんがまた出るんなら、観に行きますとも!
<2019.03.03鑑賞>
さすが浮遊きびなごさん、素晴らしいレビューですね♪
“共感返し”でも“フォロワーだから”でもなく、ただただレビューに共感し、感動したので、共感票を投じさせていただきます。
特に私がレビューで書くことを断念した、映像表現の面での工夫を的確に文章化されているところがすごい!と感じました。
「あの表現や効果って、こんな風に言語化すればいいのか」と勉強になった部分(「色収差」とか)がたくさんあります。
きびなごさんのレビューが目に留まり、取り急ぎコメントさせていただきました。
『アリータ』の方にいただいたコメントについては、またあらためてご返信させていただきたいと思っています。あしからず。
それでは、また~。