「TOHOシネマズ新宿にて観賞」クソ野郎と美しき世界 shallowwhiteさんの映画レビュー(感想・評価)
TOHOシネマズ新宿にて観賞
SMAPだった3人が、ジャニーズとは違う自分達を見せる狼煙としての映画作品なのだろう。
尖ったクリエイター達による尖った表現の中で、サブカルチャーやアートに参入する3人を見せたかったのだろう。
ところが、尖り方は中途半端で、笑いは寒くて、映像センスは20年古い、と1本の映画作品としてはお粗末極まりない出来だった。
ファンと身内向けのプロモーションならともかく。
先ず、新しい3人が見られるかというと、これが期待外れ。3人とも従来のイメージ通りの役柄と芝居。
稲垣吾郎は、ピアニスト役だがピアノを弾く指は常にダブルで、脱ぐチャンスがあったのにケツも見せなかった。アイドルの枠を超えない稲垣吾郎でしかない。
香取慎吾もいつものお芝居。
面白いのは、彼の描いた画が唄食いには「美味しい」、つまり才能があるという設定であること。臆面もないものだ。
北野武もそうだが、アーティスト気取りを前面に出す映画人はお寒いし面倒くさい。
草彅剛も極道役は板についているから新味無し。
稲垣を極道、香取をピアニストなどシャッフルした方が「新しい地図」になったのでは。
尖った演出陣も適材だったのだろうか。
園子温。
グラマラスで頭の悪い女性、大袈裟に喚くカッコからして過剰な男達(三池崇史演出と見間違えそう)のつまらない鬩ぎ合い。これまた最近の園子温に過ぎない。
ところがどっこい、この園子温パートが一番楽しめたのかもしれない。下らない空騒ぎも20分くらいなら楽しめるのだ。浅野忠信や満島真之介も役に合っていただろう。
いや、それ以上に他パートが酷かっただけだが。
香取慎吾のパート。落ち着きつつも味の薄い演出だが、所々で非映画的なオーバーアクトが跋扈するのは舞台の人らしい演出。
オチの料理教室はこの監督の演出だろうか。シュール狙いの笑いが何とも薄ら寒く、トーンが少々違う気がする。
一番酷かったのは太田光のパート。
台詞の所々で散りばめられた「文春砲」「オスプレイ」といった時事単語、「カネやん」「所さん」といった人名はこれ見よがしの露骨さ。20年遅れのタランティーノ・フォロワーみたいで非常に気恥ずかしい。
肝心の演出はもっと酷い。ひたすら役者を叫ばせる下手な舞台のような作法。これほど酷い尾野真千子は見たことがない。
笑いもダメ。「所さんか!」で満席の劇場に愛想的な笑いがあったが、一番のオチのはずの「沖縄と逆だ!」は静まりかえっていた。
新井浩文演ずる警官も個人情報話しまくりで、話のリアリティラインを著しく下げている。腕移植云々はさておき、会話と感情のリアルを軽視されると話自体を真面目に捉えられないというか、どうでも良くなる。
才気を見せつけるが、古臭く動力も弱い。お笑いはいざ知らず、太田光は映画において北野武にはなれなさそうだ。
最後のパート。
今まで異なる世界観の3人がどう絡むのか?と知恵を絞り身構えてたんだが……同じクラブに集うだけ!脚本なんて無いようなもんだ。なにこれ。
3人が会合するシーンはバレットタイム演出……古い。
このパートは野暮ったいミュージカル演出といい、論ずるに値しない。
結論として、
冒頭のオープニングタイトル以外は一体何が「新しい」のか分からなかった。3人が尖った振りをした痛々しい姿にしか見えなかった。
山下敦弘あたりが監督で日常的なドラマかコメディだったなら豪華で面白かっただろうに、ついと考えてしまった。