劇場公開日 2018年4月28日

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「すべては暴力のために」犯罪都市 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0すべては暴力のために

2023年2月1日
iPhoneアプリから投稿

ハリウッドの大作アクションじみた韓国映画は基本的に面白い。最後までちゃんと楽しめる、という意味で。本作もその例に漏れず最初から最後まで緊張感あるアクションとサスペンスが展開され、あれよあれよという間にエンドロールだ。ただ、ちょっと振り切りすぎというか、全編を通じて万物が暴力に奉仕している感じがしてちょっと怖かった。

R-15のバイオレンス映画なんだから暴力描写が多いのは当たり前なんだけど、それが発露されるまでの過程が、明らかに「暴力の発露」という終点を期待しながら積み上げられていた。暴力を画面上に顕現させるために誰かが悲しむ、誰かが怒る、誰かが死ぬ。終盤で焼肉屋の貧しい少年が血まみれで倒れているシーンなんかがいい例だ。彼があそこまで酷い目に遭う必要は明らかになかったと思う。

そしてすべては暴力へと結実する。トイレでの容赦なき殴り合いはすさまじい。2時間かけてじっくり築き上げてきた不均衡を一瞬にして是正する。こういうとき、暴力という表象はパワー・スピードともにこの上ない効果を発揮する。暴力ほど手っ取り早く大きなカタルシスをもたらしてくれるものを私は知らない。

しかし圧倒的だからこそ、暴力を運用することは難しい。ともすればそれはすべての不都合を隠匿し、憎悪を高らかに喧伝する悪魔にもなりうる。本作であれば、焼肉屋の少年のような無意味な犠牲者や、あるいは朝鮮族というセンシティブな民族問題は、結局のところ暴力の圧倒性によって画面の端に追いやられ、やがて忘れ去られる。

そして後に残るのは「勇気ある警察が悪い朝鮮族を懲らしめた」という単純明快な「勝者の歴史」だけだ。

これがポン・ジュノであれば、劇中にわだかまる諸問題をそのまま我々に投げつけるくらいのことはしたと思う。映画はここで終わるけど、問題は決して終わらない、という思慮深さが彼にはある。それはそうと物語それ自体にはうまいこと引導を渡してのけるものだから舌を巻いてしまう。

だから暴力で物語を解決するにしても、その暴力主体だけを全面的に称揚するのではなくて、たとえば主人公の刑事の出自が実は朝鮮族だということが判明して、主人公が苦い顔を浮かべて終わるとか、そういう大島渚的なオチをつけてもよかったんじゃないかと思う。

因果