黒い箱のアリスのレビュー・感想・評価
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青とピザとトム・ハンクス
不思議な世界観だった。森の中の一軒家。しかも両側がガラス張りのシースルーという作りで、どこかの前衛的な建築家が建てたかのような家。少女アリスは交通事故で母と右腕を失い、最先端の義手を装着して練習する毎日。太い青、中くらいの緑、細い赤の円柱が印象に残る。人間の言葉をしゃべる装置をつけている犬を“ママ”と呼ぶアリス。どことなくソフトバンクのCMを思い出させる白い犬だ。そんな不思議な舞台設定のうえに、ストーリーまで不思議感がいっぱい。
全体は5つの章立てになっていて、序章として黒づくめの男が父アダムをバットで殴り殺す映像がある。これは最終的に父親が殺されるということか?と、興味津々になるものの、3章あたりで父親が刺殺されるのでびっくり。タイムループものを扱うにしても殺され方までは変わらないだろうと、『オール・ユー・ニード・キル』なんかを思い出した。また、犯人の動機がさっぱりわからず、妙な邸宅に住んでいるから金持ちなんだろうと思っていたら、母も死亡した交通事故が原因となっていたのだ。
父が森で倒れている姉弟エリカとポールを見つけたことで、事件が展開する。一方で、アリスは身長くらいある黒いキューブに遭遇し、そこでメモを見つける。自分の筆跡で「THEY ARE NOT TO BE TRUSTED」と書かれたメモ。次の日には自分の声が録音されているウォークマンを見つけるのだ。「ポールを殺せ。ついでにエリカも殺せ」と、にわかに信じがたい内容。さすがに思いとどまったアリス。やがて、父もベアトリス(犬の名)も殺され、失意のもとタイムマシンのようなキューブに願いを込めるのだった・・・。
アリスが戻ったのはエリカが恋人デヴィッドに殴られているシーン。ポールは耳をふさいでいる。どう考えてもヤラセの暴行なのだが、このデヴィッドが父親を殺すのだと気づいたアリスは家に戻り、ウォークマンを聞いている自分を閉じ込め、自らがポールを殺す。しかし、エリカの返り討ちに遭い、アリスは殺されてしまう。と、閉じ込められてたアリスが嘆き悲しむ父親の前に現れ、タイムマシンについて語るのだった。
驚いたのは黒づくめの男がデヴィッドではなく、父親アダムだったこと。要するに過去から来たアダムが現在のアダムを殺し、ついにはアリスがデヴィッドを殺すのだ。従来のタイム・パラドックスとしてはかなり乱暴な展開。同時に同じ人物がいること自体、SFとしては違反してるというのに、自分を殺すってのが信じられないほどの暴挙なのだ。そんな違反づくめの内容だったけど、建築物の幻想的な美しさや鳥のさえずりなどの効果音が心地よかったので、及第点と言えようか・・・。
合わなかった
キャラクター全員に人間味を感じないのは、それを意図してるからだと思う。でも全員行動の理由が全く分からない。ポールのことが好きとか急に出てきて「は?」ってなるし、「なんでそこでそう動くの?」っていうシーンばっだし、結局あの姉弟はなんだったのかも分からない。なんで不審者を家に入れた? てかあの雰囲気のおかしい家はなんだ? 彼女をレイプしてた奴があの家に来て涙ながらに語って、でもナイフはすぐ置いたしマジで行動の理由が分からない。あといちいちワンシーンが長い。雰囲気作りのためだとは思うけど、その雰囲気を楽しめなかった自分にとっては不快感さえある冗長なシーンばかりだった。ずっと廊下を歩いてたりとか、父の死体を前に泣き続けるだけのシーンとか、意味が分からなかった。泣くっていうか叫ぶっていうか……「アーッ‼︎ …………アーッ‼︎ …………アーッ‼︎ …………アーッ‼︎」って、なにあれ。なんであんな散発的に叫ぶの??? 黒い箱が最初は触れば開いた(?)のにアダムが死んだ後のシーンでは触っても開かず、「大っ嫌い」と言って反応したのも意味不明。ここまで感想を書いて、視聴者にこういう体験をさせたかったのでは? とも思ったけど、これに今後2時間は使いたくないな。
ヒスパニックなミステリー
スペイン作品なのだが、なかなかこれが面白い構成となっている。プロット自体はそんなに斬新なモノではないのだが、でも所謂SFに於けるパラドックスを易々と超えてしまう辺りがラテン系のノリなのだろうか?何のことはない、自分が過去に戻って、その時の自分を消してしまえばいいという発想は、まぁ、日本では一寸幼稚なのだが、でもこういう発想も悪くはないと感じさせる展開ではある。ただ、一寸冗長なカットが多く、特に主人公家族が住んでいる現在アート的邸宅のシンメトリックな佇まいを多く挿入している部分は、何か暗喩的なプレゼンスで、解釈が必要なのだろうが自分にはサッパリ不明である。かなり極小に絞られたBGMや、殺害の際の唐突さとそれとは真逆の無音、そしてだからこそ効果的なのか、黒い箱(タイムマシーン)のCGに対応する効果音の不気味さに驚かされる。どうでもいいラノベ原作のショ○ベンアイドル主演の邦画よりも余程観る価値のある、秀逸な展開の作品である。
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