「ハンガリーにおける第二次大戦時の大河ドラマを見せられた様な」ウォーキング・ウィズ・エネミー ナチスになりすました男 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
ハンガリーにおける第二次大戦時の大河ドラマを見せられた様な
マーク・シュミット 監督による2014年製作(113分)アメリカ・カナダ・ルーマニア・ハンガリー合作映画。原題または英題:Walking with the Enemy、配給:インターフィルム、
劇場公開日:2018年2月
ハンガリーのユダヤ人をナチスから救うために敵兵になりすました実在のユダヤ人 Pinchas Tibor Rosenbaum (1923〜1980)をモデルにした、エレク・コーエン(ジョナス・アームストロング)を主人公とした物語。いつバレるかとドキドキさせられたが、ソ連軍が攻めてきた際でさえ、ナチス将校の制服を着ていて、攻撃の標的となっていたのには、呆れて驚かされた。主人公のユダヤ人救命活動を献身的に支える恋人ハナー(ハンナ・トイントン)が、何とも可愛らしく、いじらしかった。
当時のハンガリー最高権力者ホルティ・ミクローシュ(ベン・キングズレー)も、主役の一人と思えた。ハンガリーは同盟国として独ソ戦においてドイツ軍と共に戦ったがスターリングラード攻防戦(1942年6月〜1943年2月)で軍が壊滅するなどの大打撃。ホルティはドイツと距離を取り始め連合区側と交渉を始めた。ドイツはハンガリー国内ユダヤ人をドイツ国内に移送する事を要求したが、ナチスによるユダヤ人政策に批判的であったホルティは、これを断固として拒否。
しかし、ドイツは1944年3月22日に「マルガレーテI作戦」を発動し、ハンガリー全土を占領下に置いた。同盟国でなく、属国扱いかとビックリさせられた。ホルティは軟禁され、反ユダヤの全体主義矢十字党が権力を握る。そして、映画で描かれていた様に、多くのユダヤ人が収容所送りにされたり、ドナウ川の堤防等で射殺されたりした。
ソ連とハンガリーが休戦協定の合意に達して戦争が終結したとのラジオ放送が流れ皆が歓喜、それが矢十字党政権によりすぐに覆される展開が、何とも印象的で悲劇的であった。
在ハンガリーのスイス副領事カール・ルッツ(ウィリアム・ホープ )も主役の扱いであった。彼は、保護証書の発行だけでなく、ガラスハウスにユダヤ人を匿い、多くのユダヤ人の命を救う(その数は6万2千人以上だったとか)。
敵側の主役、超有名なアドルフ・アイヒマン(チャールズ・ハベル)は1944年3月にハンガリーに派遣され、40万人のユダヤ系ハンガリー人をアウシュヴィッツガス室に送ったとか。1945年に親衛隊全国指導者ハインリヒ・ヒムラーはユダヤ人虐殺の停止を命令したが、アイヒマンはそれに従わずハンガリーで任務を続けたらしい。確かに、戦争遂行を度外視し、ユダヤ人抹殺に邁進するアイヒマンの姿が印象づけられた。
ユダヤ人の敵への執念深い復讐も凄いが、本作も含め幾つかの映画で、民族の歴史的恩人たちへの感謝をこうして、きちんと映像作品としてきちんと残していくことに、民族としての凄みの様なものを感じさせられもした。
監督マーク・シュミット、製作マーク・シュミット 、ランディ・ウィリアムズ 、クリストファー・ウィリアムズ 、D・スコット・トラウィック 、ブライアン・シュミット、原案マーク・シュミット、脚本ケニー・ゴールド、撮影ディーン・カンディ、美術クリスティアン・ニクレスク、編集エリック・L・ビーソン 、リチャード・ノード、音楽ティモシー・ウィリアムズ。
出演
ジョナス・アームストロング、ハンナ・トイントン、ベン・キングズレー、チャールズ・ハベル、ウィリアム・ホープ、サイモン・クンツ、サイモン・ダットン。