「ハンガリーの事情がよく伝わってきた。」ウォーキング・ウィズ・エネミー ナチスになりすました男 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ハンガリーの事情がよく伝わってきた。

2019年3月14日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 勉強不足のため、矢十字党というのも知らなかったし、スイス保護状というものも知らなかった。それまでの摂政ホルティ(ベン・キングズレー)はソ連軍との休戦を画策するが、それがナチスに知られることとなり、矢十字党のサーラシがクーデターで政権を掌握することになった。親ナチスの矢十字党。どことなくハーケンクロイツにも似ているマークは不気味だ。

 それにしても『シンドラーのリスト』以降、ユダヤ人を救ったという実話がどんどん出てきたものだと驚きの連続。この映画もかなりの残酷描写があり、随所でのユダヤ人の虐殺も描かれている。特に胸が苦しくなったのはヒロイン・ハンナの妹が銃殺されるシーン。壁に手をつき、一人ずつ銃殺されていき、次は自分か、次なのか・・・と、辛さをこらえる苦悶の表情は涙無しでは直視できない。

 最初にSSの制服を着て友人のフェレンツを助けたエレク。「失うものはない」と言ったエレクは次から次へと無謀なまでの作戦でユダヤ人を救出していく。さらに行方不明となった自分の家族の消息をつかもうとナチスのパーティにまで参加したりする。結局ポーランド・アウシュビッツをはじめとする収容所に送られるユダヤ人を全ては助けられない。スイス保護状(偽造したものも含む)にしても7千枚ほどしか作れなかったようだ。

 矢十字党の幹部と数度に渡り対峙したエレク。終盤の銃撃戦は凄まじいものがあった。さらにはソ連軍侵攻。そんな国の危機が迫る中でも矢十字党はユダヤ人を銃殺しようとしているのだ。

 痛快さもある終盤だったが、それにも増して自分の英雄行為の多くを語ろうとしなかったところが偉い。同じ状況に置かれたら、こんな行動を自分がとれるかどうか。やはり何もかも失い、ヤケクソにならなきゃ出来ない行為だな・・・

kossy