「華麗な縦列駐車」ハッピーエンド いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
華麗な縦列駐車
そんな車の話ではなく、ブラックユーモアを盛り込んだかなり読解力を要求される作品である。ハネケ監督作品は今回初観なのだが、各シーンに於いてこんなにもオチまでのフリが長い、それでいて場面転換の急激な時間進行のストーリー展開は初めてかも知れない。下手したらそれこそ学生作品の編集と言われても疑わないかもしれないが、それだけストーリーの繋ぎを観客の想像力に頼っている希有な作品なのである。内容としては、簡単に言ってしまうと人を殺したお爺さんと子供が、罪の意識に苛まれたり苛まれなかったりする、まぁ、利己主義的テーゼが全体に影を落としているという形である。ただしかし、だから感情移入が出来ないかと言ったらそうではなく、その周りの家族も又、罪の深浅はあるがどれも現代社会では身の回りに起こっていることであり、人間のだらしなさ、ダメさ加減を素直に描いているので、多かれ少なかれ誰しもが思い当たるフシがあって然るべき話なのだ。やたら『小便』の音やワードが出てくるのも、いくら金持ちであっても化けの皮を剥がせばダメ人間の化物だということを、フランス特有のアイロニーを交えつつのお家芸を充分効かせたセンスで作られていることの比喩なのであろう。主人公の女の子の従兄が殴られるシーンでの引きのカットや、祖父が道路を車椅子で通っている時に黒人の連中と何やら話をしているカットは、喧噪と騒音でかき消されその台詞は一切聞こえない演出等、何とも不親切さがビシビシと伝わるのだが、こういう味も又映画の醍醐味なのかも知れない。ここは素直に受容れるしかないのである。ラストの海に入水しようとしてる祖父をスマホのビデオで撮影している女の子、そして急いで追いかける祖父の息子や娘の追いかけるシーンが入り込む作りは、一番の喜怒哀楽が混じった何とも言えない感情が渦巻くベストシーンだろう。本当に不思議な映画であった。