「手堅い演出」モリーズ・ゲーム 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
手堅い演出
シカゴ7裁判を見て感心したが、監督がアーロンソーキンと知って、なるほどと思った。このモリーズゲームがいい映画だったからだ。
すでに風格があるが、長く脚本家をやってきたひとで2017年のこの映画が初監督作だった。
ジェシカチャステインの演技も称賛され、映画は批評も興行も成功している。
ところで、この映画で個人的にもっとも印象的だったのは裁判官役のGraham Greeneである。
テイラーシェリダンのWind Riverも同年で、そこに出てくるGraham Greeneも印象的だった。
先住民俳優で、ケビンコスナーが監督したDances with Wolves(1990)でアカデミー助演男優賞にノミネートされている。
フォックスマンというジャッジがGraham Greeneの役だったが、態度や抑揚や威厳が、本物の裁判官にしか見えなかった。
かれは良識ある人物だった。
有罪をみとめたモリーに『ランチを注文するような口ぶりで』こう宣告する。
『当法廷はウォール外から近い距離にある。経験から言えることだが、ウォール街の人々は日常的に、起訴状にある被告よりも重大な罪をおかす。被告を投獄することに、いかなる意味も見いだせない。』
そう言って、ジャッジは彼女に200時間の社会奉仕、一年間の保護観察、20万ドルの罰金を言い渡し、事実上放免する──のである。
おそらくMolly Bloomは違法なギャンブルを運営した、というより、たんなる管理人だったのであって、それを起訴状から判断したジャッジは「被告を投獄することに、いかなる意味も見いだせない」と述べて係争させなかった──わけである。
Graham Greeneの熟練した演技によってMolly Bloomの人となりが浮かび上がるシーンだったと思う。
Graham GreeneはWind Riverにおいても、深い人間理解を感じさせる、警察署長役をやっていた。ちなみにWind Riverは個人的に2017年ベストのひとつです。
モーグルで松につまずいたが起き上がったことに対比させ、逮捕されたけれど、また起き上がって、こんどこそ、しっかり生きる──と主張する、いい脚本だった。