「栄光も転落も、これが私のしぶとい生きざま」モリーズ・ゲーム 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
栄光も転落も、これが私のしぶとい生きざま
ジェシカ・チャスティンに外れナシ!
今作も期待通り面白かった! 『女神の見えざる手』も良かったが、甲乙付け難い。
今作で彼女が演じるのは、実在の人物、モリー・ブルーム。
モーグル選手として将来を期待されながらも、怪我で断念。
そのままロースクールに通っていれば、弁護士になっていただろう。が、彼女はそうしなかった。
ロースクールに通う前の1年間の休業中、バイトで足を踏み入れた世界に魅了される。
それは、法外な掛け金が動く闇ポーカーの世界。
やがて自分のポーカー・ルームを開き、大成功。
アスリートからギャンブルの運営者に。
しかし、違法賭博でFBIに逮捕される…。
何と数奇な半生、波乱万丈。映画にうってつけ。
そして彼女自身も“ストロング・ウーマン”。
映画はスキャンダラスな面に触れつつも、モリー自身に迫る…。
全編の大部分をモリーのナレーションで語られる。
その話し方ですぐ分かる。
強気、勝ち気。幼い頃から跳ねっ返りが強い。
悪く言えば、傲慢、生意気、偉そう。
それでいて美人で、頭もメチャメチャいい。
だからどうしても悪名が付いて回る。“悪女”“女帝”“ポーカー・プリンセス”…。
しかし、世間で思われてるイメージとは違い、決して悪事に手を出さない。
自分のポーカー・ルームでの不正や疑わしい行為は絶対に許さない。
イカサマしたり、特定の客を贔屓したり、客と関係持つ事も絶対しない。(ま、カモにした事はあるけど…)
それで客とトラブルになっても構わない。
常にフェアプレー。それは元々アスリートであったスポーツマン精神と彼女自身の真っ直ぐな性格がそうさせているのだろう。
それだけじゃない。
手数料は取らないでやって来た。取れば、法に触れる。しかしある時運営に行き詰まり、遂に手数料を取る。それをはっきり認める。自分は有罪である、と。
彼女のポーカー・ルームのプレイヤーたちは、あらゆる世界の大物、セレブたち。彼らの秘密も知っている。回顧本出版の時、実名を出せば巨額の金が貰えるが、決して名は明かさない。裁判で自分が不利になっても顧客の名は明かさない。
金や保身の為の売名は絶対にしない。そんな事をすれば、相手の人生を破滅させてしまう。
何より、自分を守る為。強請、たかりみたいな事をすれば、間違いなく身の破滅になる。
その決してブレない、芯の強さ。
マジ、カッコ良すぎ…。
だが、彼女も一人の人間。
常に抱える孤独。成功を収めても、心は虚しい。
酒、そしてドラッグに溺れる。連日寝ず、寝ても数時間。
ギャンブルの世界に居るという事は、危険も隣り合わせ。
ある申し出を断った為に、襲撃を受ける。さすがに怯え、恐怖する。
強い女性ではあるが、内面はボロボロ。脆さ、弱さも。
ひょっとしたら、そんな一面こそ彼女の本当の姿かもしれない。
美しく、タフで、複雑な内面を持ち併せ…。
ジェシカ・チャスティンの為のハマり役。
言うまでもなく、名演、力演。
彼女が着こなす衣装の数々が、胸元が大胆に開いたものが多く、見とれてしまう。
それにしても、『ゼロ・ダーク・サーティ』や『女神の見えざる手』など、彼女が出るスリリングで骨太なサスペンス・ドラマはどうしてこうも面白いのだろう!
ジェシカ・チャスティン・ショーではあるが、イドリス・エルバとケヴィン・コスナーも見せ場ある好助演。
イドリスは、モリーの弁護士。最初は弁護を断るが、彼女の素顔を知って弁護を引き受ける。あるシーンで、彼女を庇おうと熱弁奮うシーンに胸打たれた。
ケヴィンは、モリーの父。モーグルのコーチでもあり、厳格。確執あり。しかしそれは自分に非があり、娘への愛を吐露するシーンに目頭熱くさせられた。
『ソーシャル・ネットワーク』のオスカー脚本家、アーロン・ソーキンの監督デビュー作。
台詞量は多く、ポーカーのルールを知ってないとちと小難しい。
しかし、テンポよく、140分を一気に見せ切る手腕は見事なもの。
監督としての次回作にも期待。
劇中でマイケル・セラが演じた“プレイヤーX”はハリウッド・スターの設定。そのモデルは複数居て、びっくりするほどのビッグネーム!(名前は挙げないので、気になった方は調べて下さい)
ある女性の栄光と転落。
実際見てみると、栄光は束の間で、挫折や転落の方が多い。
怪我でアスリート人生を絶たれ、
顧客と幾度かトラブルになり、
遂には逮捕。財産も全て没収。
しかし、彼女は立ち上がる。
自分の手で、時にボロボロになり、過ちを犯しても、まだまだ私はやれる。しぶとく。
世の男たちよ、その生きざまから教えを乞え。
世の女たちよ、強く、逞しくあれ。