「僕の名前で君を呼ぶ」君の名前で僕を呼んで 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
僕の名前で君を呼ぶ
ノスタルジーを感じさせる1980年代。
自然豊かでのどかな北イタリアの避暑地。
ひと夏を過ごす。
出会いは付き物。
主人公の少年エリオもある出会いをするが、忘れられない特別な出会い。
彼が出会ったのは、年上の青年だった…。
最初の印象はあまりいいものではなかった。
大学の美術史教授である父の研究の手伝いとしてやって来たその青年、オリヴァー。
青目金髪のハンサム。頭は良く、運動神経も抜群。
父には信頼され、母や周りの人々にすぐに受け入れられ、女の子にもモテモテ。
ちょっと自由奔放で横柄な所もあるが、それさえも画に描いたような好青年。
彼に比べたら、自分なんて…。
エリオの気持ちも分かる。
多感時期でまだ未熟な少年にとって、7つしか離れてない完璧な存在には、引け目を感じてしまう。
そんな抵抗や苦手意識が、憧れや兄貴分としての慕いとは違う感情へと変わる…。
2人が互いを意識し合い、距離が近付いたのは、中盤のツーリングの時であろう。
何かきっかけがあった訳ではない。
それまでにも泳ぎに行ったり、出掛けたり、ピアノを弾き聞かせたり、他愛ない話をしたり、一緒に過ごす内に…。
ごく自然な事だった。
同年代の女の子とだったら理想的だが、特別な想いに性別は無い。
最初から気持ちを秘めていたのはオリヴァーだろう。少なからずアプローチを感じた。
そんなオリヴァーの気持ちが、エリオの心に灯火を点けた。
意識し始め、惹かれ合い…。
初々しく触れ合う。
想いが確かであると、時にはそっけない態度を取ったり…。
近付いたり、距離を取ったり…。
気持ちが高ぶり過ぎて、不安になって…。
ある夜、心と心、身体と身体が触れ合う。
君の名前で僕を呼んで。僕の名前で君を呼ぶ。
それほどその想いは抑え切れない。
新星ティモシー・シャラメの繊細なきらめき!
表情一つ、抑えた感情表現一つ、胸に染み入る。
特にラストの数分に及ぶ長回しによる心と表情の揺らめきは、語り継がれるだろう。
アーミー・ハマーも魅了と実力を存分に発揮。時々凡作でその才能を潰してしまうが、本来は演技派なのだ。
父親役マイケル・スタルバーグの好助演も付け加えたい。実は、父は息子のオリヴァーへの想いを知っていた。息子の特別な感情を咎める親が多いが、そんな息子を思いやる。ラスト直前のそのシーンは目頭熱くさせられる。
2人の淡く切ない恋心をきめ細かく描いたルカ・グァダニーノの上質で素晴らしい手腕。すでに話題になっている次回作『サスペリア』リメイク版がどんな仕上がりか、期待と興味尽きない。
自身も同性愛者である巨匠ジェームズ・アイヴォリーによる脚本は、台詞一つ一つに気持ちが込められてるかのよう。
そして本当に、この美しい風景、美しい映像、美しい物語に心が洗われる。
男同士の同性愛を描いた作品故、好き嫌いははっきり分かれる。
自分も引き込まれながらも、感情移入とまではいかなかった。一応、自分は同性愛者ではない。
かと言って、同性愛に差別や偏見は無いつもりだ。愛の形は気持ちに正直に、人それぞれ、自由。
単に作品の好みの問題で、同じく同性愛を題材にした『キャロル』や『ムーンライト』は合わなかったが、本作は『ブロークバック・マウンテン』以来久々の当たり!
物語、映像、演出、演技…思ってた以上に魅了された。
ひと夏の出会い。恋。別れ。
2人が再会する企画進行中の続編も是非見たい。