「大掛かりな映像の中にも、繊細なタッチあり」移動都市 モータル・エンジン 虹孔雀さんの映画レビュー(感想・評価)
大掛かりな映像の中にも、繊細なタッチあり
本作は、巨大な移動都市が別の都市を飲み込んでいったり、どんどん破壊をしていくだけのシンプルすぎるストーリーではないことが観てわかった(先入観は良くないと反省)。
ただ、前半はそこそこチープで、どかっかん、どっかん勢いで押していく雑把な表現が多く、若干後悔し始めてはいたのであったが、中盤から後半にかけては結構なもんで、内容にぐっと引き込まれてしまったところがある。
ヒロイン、ヘスター・ショウが感情移入できるか否かの鍵を握っていたのだが、後半からぐぐっと引き込んでいく演技が印象的であった。
母を目の前で殺され、愛を知らず、信じることを知らない、孤高の女戦士は、仲間との出会いによって一人では決してたどり着けなかった運命にたどり着く。
最初に出会った男トムに対して、ヘスターはこんな男頼れない、と呆れ顔で歩みを進めるのだが、人は不思議なもので、一度信じられるものを失っても、また人を信じることの素晴らしさに目覚めてゆくことがあるようだ。それが人の弱さなのか、はたまた強さであるのか、議論するのはよそう。
自分の強さだけを頼りに生きていることに限界を感じ、また仲間を信じることの素晴らしさに、徐々に心を開いていく彼女の仕草や表情は、観る者の共感を得るところがあると感じた。
そうした、人の心の変化の微妙なタッチにも上手に踏み込んでくれた本作品は、一見する価値があると思う。
私自身は、安いものも美味しく食べれるという得な体質ではあるが、まずいものは食べれないたちである。
そんな私の味覚を信じてくれたら幸いである。