ファースト・マンのレビュー・感想・評価
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仕事人間の心のすきま。
宇宙計画にまつわる実録映画である限り『ライトスタッフ』を避けて通ることはできないと思っているが、本作は『ライトスタッフ』からパイロット/宇宙飛行士の危険と隣り合わせの日々と、彼らを取り巻く家族のパートを抽出して、等身大の夫婦ドラマを削り出したような印象を受ける。
言いかえると『ライトスタッフ』から爽快な部分を根こそぎ取っ払うようなアプローチであり、決して万人向けのヒーロー譚にはなっていない。むしろ随所に顔を出すリアルな「夫婦あるある」の数々を前に、もっと違うものを観たかったのにという意見の人がいるのも理解できる。
しかし月着陸という壮大なプロジェクトに、立派なだけじゃない人間のドラマがあったのだという切り口が、思いがけずしっくりきた。ライアン・ゴズリングはこういう感情の表し方が不器用な人間を演じるのが本当に巧い。不器用な仕事人間映画として秀逸なんじゃないだろうか。グレーだがほんの少し光が射すようなラストシーンも大好きだ。
これは紛れもないデイミアン・チャゼルの最新作
ロケットの狭いカプセル内に分厚い宇宙服を纏って身を置いたパイロットの体が、打ち上げの爆音と共ぶるぶると震え始める。カプセル内の機器も同時にぶれ始める。ロケットが放物線を描いて水平飛行に移ると、今度は死のような静寂に支配される。その閉塞感と孤独感は、地上のステーションから送られてくるかすれた交信音ではカバーすることなどできない。宇宙旅行惣明期のリアルを、かつてこれ程までに克明に映像に置き換えた映画があっただろうか?ある時代、状況を徹底的に追求するのが得意な、これは紛れもないデイミアン・チャゼルの最新作である。アームストロングの無謀とも言える挑戦を、彼の個人的な葛藤の終着点にしたドラマ構成には好みも出るだろうが、筆者はOK。恐怖に震えた後に感動の結末。チャゼルのさらなるこだわりを次回作で観たい。
音楽物だけじゃない。デイミアン・チャゼルの懐の深さに感嘆
映画の道に入る前はミュージシャンを志したデイミアン・チャゼル監督だけに、ドラムを学ぶ学生と鬼教師がぶつかり合う「セッション」、ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」の過去2作で音楽がらみの演出に長けているのは、ある意味納得。だがそれだけではないことを、アームストロングの半生と月面着陸を描く実録ドラマで見事に証明してみせた。
人類初の偉業を成し遂げた特別な人間という別格の英雄としてまつりあげるのではなく、娘の病死と仲間たちの事故死に心を痛め、身近に漂う死の恐怖を克服して試練に立ち向かう一人の男を、ライアン・ゴズリングと共に的確に描写していく。
忠実に再現されたアナログ時代の宇宙船内と、NASA提供のアーカイヴフッテージを活用した船外の宇宙空間の映像のおかげで、観客も乗組員になったかのようなリアルな体験を楽しめる。鑑賞後、自分も遠大なミッションを達成したかのような心地よい疲労感を覚えるはずだ。
なるべくして
ゴズの演技
やっぱゴズにはこういう落ち着いたトーンの作品もやってほしいな。
アクション映画をあまり見ない私にとっては、こういう作品の方がちゃんとその人の演技を見れるから楽しいのです。
ドライブもそうだったけど、難しい運転や操縦をたんたんとこなす職人気質な感じがとても格好いい。
普段宇宙に行くニュースも現実味がないからだろうな、「へーすごいなー」くらいで、すごさを感じてるようであまり感じてなかったんだけど
ああやって失敗を繰り返しまくってるのとか、訓練過酷なのとか、実現までに何人も人が死んでるのとかを見ると、
ああ、大変なことを成し遂げんたんだな、とやっとすごさを理解することができた。
あの月面着陸はフェイク、という話も念頭におきながら
それでもフェイクだったとしても、これはこれで現実の話として観よう、と思って観た。
ああいうパニックな状況になった時の、なんとかしようとする粘り強さだったり、ピンチの時の判断力とか見ると
自分だったらこんなふうにできるのだろうか...と考えたりした。
とにかく三半規管を鍛えないと話にならないことばかりっぽい。笑
月面の穴に、亡くなった娘のブレスレットを入れるシーン。
あのゴズの目。あの独特の儚げな目。見入ってしまうね。
ゴズの作品を見まくっているけれども、楽しい。
彼の演技を見てるのは、今すごく楽しい。
これはスクリーンで観たかった
あ、これヒューマンドラマなのか...
ロケットは鉄骨がきしみ、リアルこの上ない
絵的に感動を覚えるが
まったくこの映画を分かってない感想が並んでいて驚いた!
この映画は、人類が地球以外の星に初めて降り立った人が、なぜ、その後もヒーローのように振る舞わず謎の人物のまま消えていったのか、そのことを本当に突き詰めて、人間とは何かというレベルまで描いた作品。もちろんエンターテイメント的な要素なんてゼロ。
アームストロングは、なぜ人々が恐怖の対象でしかなかった宇宙に、多くの人が死んでいく訓練に、まったく動じず氷のような冷静さで耐えられたのか。世間では、アームストロングは、冷血すぎて好きじゃない、暗い、人間じゃない。こう言われた。
最愛の娘が耳が聞こえないことに気づいた、その治療のため、アームストロング一家は仕事を変え、病院の最新の治療を求めて何度も引っ越し、懸命に彼女の命を伸ばそうとあらゆる努力をしたが、ついに力及ばす亡くしてしまった。しかも、娘が耳が聞こえなくなったのは、アームストロング自身がちょっと目を離したすきに、石に蹴躓いて転んだことが原因ではないかと…
アームストロングは、そのあまりに深すぎる心の傷で、
娘が亡くなった日からこの世を生きる人として実はすでに死んでいたのではないか。
奥さんも、長男も、仕事も、世間も、米ソ冷戦も、宇宙への挑戦も、実は何も目にうつっていなかった。
彼の中には、何も無かった。とっくに心は死んでいた。
友人や、奥さんや、誰に慰められても、パーティーでも、1人、庭に出て眺めているのは夜空に浮かぶ月。
西洋では、昔から、太陽は生命の象徴、生きる力。月は死の象徴、死んだ人が行く場所。
アームストロングは、人々が苦しみ挑戦者の半分が死亡する人体実験のような訓練も、稚拙な技術力での月への無謀な挑戦も、まったく怖がらなかった。鉄の男と世間では称賛されたが、実は違った。彼は最愛の娘がいる、死の星に取り憑かれていて、その月に早く行きたかった。つまり、早く自分も死んで、死んだ娘のことだけを毎日考え続けるだけの、つらいこの世からいなくなりたい。娘が死んだ日から、それだけを1人心の内で願っていた。そして、数々の軌跡があり、本当に人類初、月に辿り着いた。月の「静かの海」その深い深い暗闇に、娘の手作りのブレスレットを、そっと落とし、自分の中で、結論をつけた。さようなら。
最高の宇宙映画だった
月面着陸した男の物語
リアル
静かな映画
英雄譚ではありません
怒りに満ちた中に生まれた成功、驚きの映像体験
フライヤーから選んで自宅鑑賞するパターンで選んだ今作。ポスターやタイトルから連想したイメージと違い、思ったより怒りの映画だった。偉業の裏の苦悩…凄い1歩。
アームストロングが月に降り立ったことで、人類が初めてその一歩を踏んだ。それは習わずとも知っている話。それまでの苦悩や困難を描きつつ、大きな一歩を描いていく。
たぶん、タブレット鑑賞じゃ勿体ないんだろうな…と思うくらい序盤から画質と奥行きが凄く綺麗。意味のある画質の透過をしている。ソ連との宇宙開発競争に焦るアメリカが打ち出した月への到達。それまでの過程は想像に足らない程の困難の連続。単純な犠牲だけでは片付けられない程の想いが重なっていく。
故に怒りが多いと感じたのはそこだ。途中、NASAにお金を使うくせに貧困層は見捨てるのか!みたいなデモも描写で描かれていたり、決して単純な賛美だけで終わらないのがまたリアル。ただ、やはり英雄記としての引き立てに機能したのが少し気になる。没入感が少ない状況下で観たからこそ感じる部分でもあるだろう。
凄く印象的だったのが、やはり家族の描き方。背負っている者としての勇ましさを感じる一方、なんとなく残された側に対しての置き去り感が否めず。ただ、それは今作が凄く広い視点を持った作品だからこそ感じたことではある。
民間人が月に行ける時代。そこまでして月に行く理由は、正直自分には分からない。だが、そこにロマンを感じる人がいるからこそ、多大な犠牲を払ってでも行きたい場所なのだ。家族という犠牲もいとわない、男たちの戦いに少し胸を焦がし、何度も驚きに満ちた映画体験だった。
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