ファースト・マンのレビュー・感想・評価
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静かぁ〜に淡々と
新たなデイミアンチャゼル節
暗い
冒頭で愛娘を失くしたニール、その悲しみが映画全体を覆い尽くす。とにかく笑顔のシーンもどこか陰鬱なのだ。音楽もあまり流れず、粛々と時系列に流れていく、沈黙とロケットの爆音しかないかの様。ラストシーンで夫婦の絆を感じさせるような終わり方をしているが、この夫婦後々離婚し、ニールは再婚する。悲劇のうえに歴史ありだが、この映画はまさにそれである。最後に・・ニールで月面に降り立ち、娘のブレスレットを月面のクレーターに落とすシーンが心に残りました。エンターテイメント制はこの映画、ないと思います。馬鹿真面目な映画です。
アポロ計画とは
花粉が飛び始める前に見たほうがいいと思います
『月面の再現』から始まった〝リアル〟の追求が、映画製作の途上で半ば目的化していったのではないだろうか?
家族との最後になるかもしれない時間を意味のない荷造りで逃避してしまう人としての弱さ、国威発揚を負わされる責任と様々な立場からの否定的な意見(ただのやっかみだってある)の狭間で抱く複雑な心情、パイオニアとしての自負と純粋な夢追い人としての情熱、不運な先達や同僚への思い。
そんなこんなを全て脚本に落とそうとするのは無理があるし、セリフにしたら陳腐になる場合もある。
だから、リアルな再現が月面に留まらず、ロケットに乗り込む時のエレベーター視点、観客が自ら体験しているような燃料噴射の轟音と月面での静寂、まるで自分が詰められているかのような妻のアップ顔……等々全編にわたり細部にまでリアルが行き届いたのだと思う。
結果として、感情を揺さぶるようなドラマ性が削ぎ落とされ、人によってはやや退屈な印象の作品となったといえる。
では監督の意図が空回りしたのか、と言えばそんなことはなく、かなりのレベルで成功したと思う。
終盤の月面に降り立つシーンでは、IMAXの劇場内から音を伝える空気を抜いたのではないか、と息苦しさを覚えるほど観客全員がまるで示し合わせたかのように息を潜めて、物音ひとつ立ててはいけないほどの緊張感を強いられながら(膝上に置いたダウンジャケットの衣擦れの音すら気になる程の静けさでした)画面に見入っていたのですから。
※2/9 東宝シネマズ日比谷 12:00の回で鑑賞された皆様、ありがとうございました。息を潜める共同作業の一員になれて、とても嬉しかったです。感謝申し上げます。
鼻水をすすったり、くしゃみをするのが憚られる映画ですので、花粉症の方は早目に鑑賞することをお勧めします^_^
静かな作品でした
船長、面白くないです
演出、音響、映像全て最高の映画。特に月面の表現は息を飲む美しさ。
ただし以下の欠点を除けば…。
実在の国家的英雄を描く以上、下手な脚色が出来ないのはそりゃ仕方ないですけどね。
ハッキリ言ってつまらない。特に、アームストロング船長のキャラがつまらないのが最高にイタい。
アポロが旅立ってからは流石に面白いけど、少なくとも旅立つまでの1時間半は、とにかく 退 屈 だ。
そもそも実際のアームストロングも、クソ真面目であんまり面白い人じゃなかったらしいですね。
結局、アームストロングが無条件で尊敬される国あるいは世代でのみ有効なドキュメンタリーなんですよ。事実って退屈だよね。
ところで船長、アポロの25年後に離婚したらしいですね。事実って面白いよね。
宇宙…それは人類に残された最後のフロンティア
地味。でもそれが「人」というもの。
宇宙空間で起こる様々なトラブルを乗り越えて偉業を果たし、奇跡の生還…といった、いわゆるSFモノとは違う。
キャラクターの体温さえ感じる距離感で、人間の姿を上品に、穏やかに、そして切なく描いたヒューマンドラマだった。
派手な演出は少ない。
「ゼロ・グラヴィティ」とか「アポロ13」みたいなモノを期待すると物足りなく感じるかも。
宇宙でのシーンについても、『神の視点』とも言える「引き」の画はほとんどなく、観客に与えられる「画面の揺れ」と「計器に現れる数字の動き」「小さな窓からわずかに見える外の景色」といった情報から何が起きているかを感じる、つまり搭乗員と同じ『人間の目線』で事態を乗り越える、というのがこの映画のスタンス。
そして「音」。
音楽の良さはデイミアン・チャゼル監督作品である以上もちろん言うまでもないが、今回も、小さな音、その距離や方向に至るまでこだわり抜いた感じは否めない。
鑑賞中、音の発生元を求めて振り向きたくなったのは私だけではないのでは?
主人公のニール・アームストロングは決してスーパーヒーローではない。過酷な訓練に耐え、社会の批判の矢面に立たされながら、それでも口数は少なく、感情的になることもない。だからこそ観客は「変人」にさえ見えてしまう彼の内面を覗きたくなる。彼の見ているモノを、彼の視点で、彼と同じコクピットに搭乗することで感じ…たい。
ラスト、(月面着陸は史実だからネタバレではないよね)大切な人を失いながらついに月面に辿り着いた彼が何を思い、何をしたのか。
世界の歴史に名を残した偉人の物語ではなく、一人の職業人であり、一人の夫、一人の父親としての彼の姿を描いている。
極端に言うと、ある男性に焦点を当ててドラマを作ったら、たまたまそれが人類で初めて月に降り立った人物だった…と言ってもいい。
『人間を描く』
鑑賞直後よりも、家に帰って思い出し、噛み締めるほどにその作り手の想いが伝わってくる気がしている。
観た方なら分かるはず。
あのラストシーンの二人が、何と可愛らしく、優しく、何と美しく、愛おしいことか。
奥さんのクレア・フォイの演技も素晴らしい。この人、ホントに役によって別人に見える。
とっても大人な映画。
今までの監督作品は皆好きだが、中でも本作が一番好きかも…というか、時間が経ってどんどん好きになっていく自分がいる。
ぜひ、あの「月」を大きなスクリーンで感じて頂きたい。
不覚にも泣けてしまいました。
一歩そしてこれから
アメリカ本国公開してから3カ月あまり公開を待っていました。
デミアン・チャゼル監督作品。前作の『LALALAND』で主演を果たしたライアン・ゴズリングが今作では月に初めて行ったニール・アームストロング船長を演じた。
アームストロング船長の事は月に初めて行った人として記憶されているがその人となりは知るべくもなく今に至っていた。
オープニングから映画『ライトスタッフ』でのX1での飛行シーンの場面が思い出された。
X15の試験飛行。
その間たくさんのパイロットが亡くなっていた。
そしてニールの娘も病気で失っている。
その喪失感が彼に重い影を残している。
その喪失感から逃れるようにNASAのジェミニ計画へ応募する。
当時ソビエトとアメリカの覇権争いが激化。
そしてジェミニ計画を進めていく中でもたくさんの仲間たちが散っていった。
新天地でもニールの喪失感は埋められない。
それでも彼は宇宙への道に何か救いがあるのではないかと突き進んでいく。
映画はゴズリングの憂いを帯びた演技が光る。
そしてニールの妻役には先日見た『蜘蛛の巣を払う女』で主演をしていたクレア・フォイ彼女も死と隣合わせの宇宙飛行士の妻役を見事に演じていた。
『蜘蛛の巣を払う女』のリスベット役よりこちらの方がしっくりきた感じがする。
映画はニールの喪失感や葛藤を淡々と描いている。
映画的には静かに進むが途中ここのシーンにはこの効果音はかえって安っぽく感じさせるところもあったが概ね評価したいと思う。
この映画見終わって『アポロ13』が見たくなった。
エンドロールにはスピルバーグの名前もあり何故か納得。
今や宇宙競争はアメリカNASAだけでは進まなくなった。
月から次は火星へとターゲットを変えてるが近い将来にはそれも達成する事だろうがその過程でまたたくさんの人が散っていくだろう。
その周りにはニールと同じ気持ちを抱くだろう。
4DXで見るべき
着陸直前の”1202”アラーム”に、感動は倍増。
物事を最初に成し遂げるということは、どれほど偉大なことなのか。多くの人がたどったあとでは、それは、"あたりまえ"になってしまう。
けっして例えが適切だとは思わないが、それは"妊娠・出産"に似ている。たいへん喜ばしいことで、周囲の家族からすると、"いつ生まれるのか"と待ちどおしく、"男の子か、女の子か"で気をもんだりする。まさか現代で"命の危険と隣り合わせ"ということはすっかり忘れている。
この映画を観て、"なんてことないロケット映画"とか、"「アポロ13」(1995)のほうがドラマティックだ"という感想を持つとしたら、すでに麻痺している。
多くのアニメや映画で、地球と宇宙を行き来するシーンを観すぎていて、"産みの苦しみ"を忘れているだけ。もとより出産の痛みなんて、オトコには分からないが…。
約50年前のロケット性能は、今から考えればオモチャ以下である。コンピューターの性能を表わす単位、FLOPS(毎秒浮動小数点演算)でいうなら、月に到達したアポロの誘導コンピューターは初代ファミコン2個分程度である。いま手元にあるスマホと比べたら、100億倍でも足りない。
デミアン・チャゼル監督と脚本家のジョシュ・シンガーは、"常に死と隣り合わせ"のミッションであることを描くためだけに全力を尽くしている。
映画冒頭、ニール・アームストロングが宇宙飛行士になる直前、幼くして病死した娘・カレンの話は単なる家族エピソードではない。子どもが普通に成長することも、"あたりまえ"ではないことを表わしている。アポロ計画で亡くなった多くの宇宙飛行士の失敗や、何度も描かれる葬儀のシーンもそうだ。
一方でアームストロングの家族との団らんや、子供と遊ぶシーンは手持ちカメラで撮影することで、家庭用ビデオの雰囲気を出し、"生きていること"と"死んでしまうこと"の対比を強調している。
この映画は、アームストロング船長の伝記でありながら、ことさら月面着陸をサクセスストーリーとすることなく静かなエンディングを迎える。
失敗に次ぐ失敗に、"命と税金の無駄遣い"と反対運動をしていた世論も、結果として月面着陸のテレビ中継に歓喜する様子は、"出産"を喜んでいる第三者と同じである。
本作はIMAXカメラで撮影されているので、IMAX上映を選択するのもいい。しかし個人的に心からおススメしたいのは、4D系で観ることだ。
4D上映自体が、多くの作品を経て進化しつづけた結果、とても細かなモーション効果を表現できるようになっている。本作の冒頭から繰り返される、"飛行訓練シーン"や"ロケット実験"が、まさに飛行士の目線で"体験できる"。ともすると、"絶対に宇宙飛行士になんかなりたくない"と思わせるほどの疑似体験だ。
チャゼル監督の意図した、静と動のコントラスト比もより大きくなる。"アトラクション効果なんていらない"、なんて決めつけないで。映画「アポロ13」(1995年) の頃は、4D上映がなかったのだ。
最後に、知っている人と知らない人では感動がまったく違ってしまう重要なシーンがある。
月着陸船イーグルが、月面へのアプローチ中に出てくる[1202アラーム]だ。劇中では全く説明されない。アームストロング船長も、1202なんて知らない。「1202アラームの意味を教えてくれ」となる。
これは32歳の女性プログラマー、マーガレット・ハミルトンの開発した、偉大なるソフトウェアなのである。ヒューマンエラーを回避するためにひそかに作られた。万が一、何らかの原因でコンピューターがフリーズしそうになると、宇宙飛行士の生死に関わる重要なプログラムだけを再起動させる。そしてそれを知らせるのが[1202アラーム]なのだ。
この時点で、宇宙飛行士が何らかのミスを冒しているという意味でもあるのだが、この画期的なプログラムがなければ、アポロは月面着陸できなかった。
だから[1202アラーム]が何度鳴っても、オートパイロットは正常に作動し続けているという意味であり、「問題ない。着陸任務続行!」なのである。
このエピソードを知っているだけで感動は倍増する。NASAで働いた女性技術者・科学者たちの貢献は「ドリーム」(2017)でも描かれていたが、ほんとうに多くの科学者のバックアップがアポロを月面に導いていた。
(2019/2/8/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ/字幕:松浦美奈・字幕監修:毛利衛)
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