「世界的な興奮と熱狂の向こうで」ファースト・マン masakingさんの映画レビュー(感想・評価)
世界的な興奮と熱狂の向こうで
人類史上最高の偉業の一つである月面着陸を、こんなにも物悲しい視点から描いた作品だったことに、ただただ言葉を失ってしまった。しかも、監督・主演は、「ラ・ラ・ランド」の二人である。かのアカデミー賞作品は、アンハッピーなエンディングが賛否両論の評価だったように感じるが、本作は、延々とアンハッピーな空気を纏ったままで終始する。
ライアン・ゴズリング演じるアームストロング船長の視点を中心としたカメラワークが、狭く、息苦しいアポロ11号からの眺めと、宇宙服のフードごしの寂寞とした月面を、観る者に追体験させる。
あの時、彼は、本作のようにノスタルジーに心を奪われたのだろうか。亡き娘の忘れ形見を、眼下のクレーターにそっと葬ったのは実話なのだろうか。月面に偉大なる一歩を記してからの数分間のシーンが、切なすぎてえもいわれぬ感情に襲われた。彼が月面を目指したのは、亡き娘カレンに会うためだったのだ。なぜか、そのように思えてならなかった。
生前の彼を知る人々は、どんな切迫した状況にあっても常に冷静で、富や名声に執着しない、謙虚で、見方によっては全く面白みのない人間だったと語っている。世界的な興奮と熱狂の向こうで、人の営みやいのちの儚さを達観していたのだろうか。ゴズリングのあの物悲しい眼が、本人以上に多くの哀しみを語っていたように感じた。