「魂を月に運ぶ物語」ファースト・マン zhiyangさんの映画レビュー(感想・評価)
魂を月に運ぶ物語
ニール・アームストロングの半生と言われて、苦難を乗り越えて最後に偉業を成し遂げる“英雄譚”を想像していた。実際は多くの人の死を背負って、魂を昇天させるために取り憑かれた男の悲愴で狂気すら感じる“冥界探訪譚”だった。
・アームストロングの娘の死で始まる物語(娘は一度幻覚として現れすらする)
・ロケット搭乗中などに度々起こる状況の理解が不可能なくらい激しく回転したりブレたりする一人称のカット
・真っ暗な夜空に浮かぶ青白い月と陰影が強調される暗いシーンの多さ
・悲愴感漂うBGM
・妙に人間味に欠ける無表情のライアン・ゴズリング
この辺の要素が重なって、前半はホラーかというくらい陰がある。後半は後半で同僚の死が重なり月到達以外のことが考えられなくなっている。あの世に片足突っ込んだかのような男にも元々家庭があったが、狂気と平穏のギャップに苦しむのはむしろ妻だったりして、やつれっぷりが酷い。
暗闇と荒涼とした大地が続き、音はないという月のロケーションはまさに冥界だった。有名な「一人の人間にとっては小さな一歩だが……」も勿論出てくるが、あまりに取ってつけたような感じがして物凄く浮いている。人類の進歩とか歴史とか、ましてや国際情勢とかのために月を目指したようには、少なくともこの物語では見えない。