「韓国民主化運動の起源となった悲惨な光州事件を、エンタテイメント化して描いていた」タクシー運転手 約束は海を越えて Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
韓国民主化運動の起源となった悲惨な光州事件を、エンタテイメント化して描いていた
チャン・フン 監督による2017年製作(137分/G)韓国映画。
原題または英題:A Taxi Driver、配給:クロックワークス、劇場公開日:2018年4月21日。
韓国出張経験や韓国人知人もいたのに、1980年起きた光州事件もその実態を世界へ向けて報道したドイツ人記者(ドイツ公共放送連盟東京特派員)ユルゲン・ヒンツペーターの存在も、つい最近まで全く知らなかった。
当時のNHKニュースを見てみると、暴徒化した学生と市民を軍が鎮圧したとの報道で、映像も投石している学生が中心。軍による多数の学生射殺や民主化運動的捉え方も見られず、韓国の政府側新聞報道に類似で、ドイツ人記者による報道との対比で、真実を伝えようとしていない日本のメディア対応にショックを感じた。当初の政府からの発表による民間人死亡者でさえ144人。本映画での軍隊による学生や市民の殺戮描写は、結構リアリティが有る様に思えた。
後の民主化運動の原点にもなったこの歴史的に重要で悲惨であった光州事件を、名優ソン・ガンホを主演に据えたエンタテイメントにして描いており、大いにビックリ。タクシーの市民たちへの協力はあったらしいが、流石にあんなカーチェイスはないだろう。でも少しでも多くの世界の人間に、光州事件を知ってもらうために、エンタテインメント化はとても有効な戦略と思えるし、韓国民主主義の始まりを多くの若い自国民に伝えることの重要性も理解できるところ(実際韓国で、1200万人以上動員の大ヒットとか)。
当初、学生運動に批判的であった主人公のタクシー運転手が現実を知る中で、運動に対する捉え方が変化していく様を、ソン・ガンポがユーモアも含めながら見事に表現していて、流石の演技力と唸らされた。尚、映画内では、当初は大金目当ての運転として描かれていたが、実際の運転手の息子は事実と異なると、抗議してたらしい。
ドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターを演じたトーマス・クレッチマンも、ジャーナリストとしての静かながら熱い使命感を垣間見せて、素晴らしかった。カッコ良かった。この俳優さんが、「戦場のピアニスト」(02)で主人公ピアニストを助けるドイツ将校を演じてたことを視聴後に知った。ドイツ側でも良い文化人がいたことを体現したあの演技も、素晴らしかったことを思い出した。
監督チャン・フン、製作パク・ウンギョン、製作総指揮ユ・ジョンフン、脚本オム・ユナ、撮影コ・ナクソン、美術チョ・ファソン、 チャン・イジン、衣装チョ・サンギョン チェ・ヨンサン、編集キム・サンボム 、キム・ジェボム、音楽チョ・ヨンウク。
出演
キム・マンソプソン・ガンホ、ユルゲン・ヒンツペーター(ピーター)トーマス・クレッチマン、ファン・テスルユ・ヘジン、ク・ジェシクリュ・ジュンヨル。