「乗客、上客、情客。」タクシー運転手 約束は海を越えて なつさんの映画レビュー(感想・評価)
乗客、上客、情客。
広州事件
何も知らない平和ボケをした頭で観たので主人公である運転手の追体験ができて良かった。
主人公はソウルのしがないタクシードライバー
男手一つで娘を育てるいわゆる小者。
そんな中、広州まで行って帰れば10万ウォンという大金に目がくらみその客を横取りしてしまう。
その客は韓国語を話せないドイツ人記者。
広州に行った記者が帰ってこない為、その広州の実情をスクープしようとやってきていた。
運転手は知らない。
広州の現状を。
記者もまた同じく、そこまでの惨劇を知らなかった。
世の中に蔓延るのはフェイクニュース。
それに彼らは軽んじて検問を突破してその地獄へと踏み込む。彼らにはそれぞれ利己的な理由もある。
それはただの学生デモなどではなく、民主化を求める市民や学生達の警戒軍との悲惨で大規模な戦争であった。
序盤は多くの住民達の声高き民主化を叫ぶ人々の列。
そこで運転手はまだ元気な笑顔の住人達からおにぎりを渡され「腹が減っては戦はできぬ」的な事を言われる。同じく戦う市民達はお互い助け合いながらも必死で講義する。
立ち上る煙幕、ボコられる丸腰の住人達。
まさか、同じ国でこのような大事件が起こっているなんて夢にも思わなかった。呆然とする運転手。
この事件を外の世界に知らせなければとフィルムを回す記者。
しかし運転手は逃げ出す。
一人娘を残して死ねない。
逃げる彼を罵倒せずソウルのナンバープレートではまずいと親身になった他のドライバーから別のプレートを渡される。
なんでこんなにみんな優しいのだろう…私は泣くよ。
逃げ出した途中の穏やかな街で食事をとる。
そこで出されるおにぎり。
相変わらず流れるフェイクニュース。
娘への靴を購入する。
運転しながら娘のことを考え楽しく歌い出す。
しかし、頭を占めるのは警戒軍のひどい乱暴の数々と罪のない優しい住人達。涙を流す。そして思い切りハンドルをきる。
引き返した広州はさらにひどい惨劇に。
激しい銃撃戦で無抵抗の人々が殺され、白旗をあげても撃たれる。
血まみれの死体、泣き叫ぶ人々が溢れる病院の中、彼らに協力的だった大学生の死体と対面する。
うなだれて気力を失う記者をみつけ、一刻も早くこのニュースを広めてくれ!と叱咤激怒する。
銃撃戦の中、俺たちタクシードライバーが怪我人を運ばないといけない!とその中に突っ込み必死で怪我人を乗せる。それまで傍観していた主人公もそこに加わる。再びフィルムをまわす記者。
うーん。ドライバーの鏡だな〜てか、お国柄なのかしら。「タクシードライバー」という責任感を持つ大勢の人々は活躍する。
記者を乗せたタクシーは空港へと向かう。
一刻も早くこの現状を伝えなければ…
2人の思いは一つになった。
軍隊により厳重にされた検問場。
1人の兵士がトランクに隠されたソウルナンバープレートを見つける…
顔色変えず兵士は「通してよし」と告げる。
もうここで私の涙腺決壊待ったなし状態である。
皆が皆、現状を良しとしてはないのだね。
しかし、軍の車に乱射されながら追跡される主人公。
やってくるのは他の広州のタクシードライバー達。
主人公を空港へ送り届けるために彼らにより繰り広げる激しいカーチェイス。
最後の1台もついに…
皆、仲間の為に、広州の為に命を散らしていく。
空港に無事到着した2人。
決して晴れやかな顔ではない。
地獄を見てきたから。
犠牲者は帰ってはこない。
空港で別れる2人。戦友。
しかし、運転手は名前を教えない。
きっと家族に危険が及ばないためかな?
真実がついに明らかにされる。
収束後も再会しない2人。
きっと彼はこれからもおにぎりは食べられないのだろうなぁと思うと争いというものは生者にとっても碌なもんじゃねぇなぁ。
ポスター詐欺といわれてるこの作品。
主人公の人柄を表すよくできたポスターだとしみじみ思う。
フィルムを隠したクッキー缶。
あのクッキー、私の好物のやつだわ。