「誰もいない森の中で木が倒れたら音がするか」タクシー運転手 約束は海を越えて penguinさんの映画レビュー(感想・評価)
誰もいない森の中で木が倒れたら音がするか
あのタクシー運転手はどうなったのか、知りたくてネットで調べました。
実際にはタクシー運転手ではなく、高級ホテルのお抱え運転手で英語を話し、この時の仕事も内容を知った上で受けた仕事だったとのこと。韓国で映画公開時に息子さんが現れ、映画と実際の話の大きな相違点として、特に高額の報酬のために引き受けたというところが残念、と話されたそうですが、映画が実際の話通りであったなら、逆に感動が薄れたと思うのです。やはり最高の見せ場は事なかれ主義だった主人公が巻き込まれながら自分が見たこと、経験したことで事なかれ主義から転身、自分から行動を起こしたところにあると思います。
私も「光州事件」のことは知りませんでした。でも知らないからこそ、光州で何が起きたのか?(最初の方のソウルでの学生たちのデモ抗議運動が伏線となっています)好奇心的なところからラストまで一機に見ました。
おにぎりをくれたお姉さんや歌謡曲祭に出るつもりで大学に入ったという学生、光州のタクシー運転手たちが次々と犠牲になっていくところはゾンビ映画で生き残った人間たちが自己犠牲を伴いながら主人公たちを助けようとしながらやられていくそんな悲壮感と重なりました。その分、学生の遺体があった病院で片方の運動靴が脱げていてそれを履かせる演出が良くわかりませんでした。田んぼのあぜ道に遺体が捨ててあったのですよね。運動靴は片方脱げたのなら病院には無かったはずなのですが。
時が流れて二人が会うことは無かったわけですが、結構皆さん会って欲しかったという意見が多くてびっくり。そんな陳腐なラストはいらない。
ラスト、無事フィルムは世界へ発信されることになるわけですが、これを見ながら思い出したのは少し前日本人ジャーナリストが渡航禁止国へ渡った後、人質となり身代金との交換の材料とされましたこと。その際、日本では自己責任論がネットで起きましたが、本人が無事帰国した後、また同じようなことが起きたとして、渡航禁止国へ行きますか、の問いに「行く」と確か答えていたと記憶しています。
行くなと言われて行かないのであればジャーナリストではない、そこで何があったのかを知らせることがジャーナリストの仕事だ、そんなことを答えていたと記憶しています。
「起きたことが人に認知されなければそのことは起きなかったことと同じ」というタイトルに通じます。