「戦争を皮肉る」ロープ 戦場の生命線 masakingさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争を皮肉る
原題は「A Perfect Day」。
直訳すれば「完全なる一日」だろうか。
あらゆる場面が、その題名からは程遠い、何も成し遂げられない不条理の連鎖ばかりなのだが、この題名どおりになるラスト数分が、なんとも皮肉である。
互いの権利が侵害し合い、がんじがらめの中でストレスフルなエピソードが続くかと思いきや、実は誰もにとってそれなりのカタルシスが訪れる結末に、声を出して笑ってしまった。
ひょんな成り行きからこの「完全なる一日」に同行することになったニコル少年が、村のクソガキどもに大事なサッカーボールを10ドルで売った理由と、そのことを知ったベニチオ・デル・トロがニコル少年に取った行動が胸に重い何かを落とした。
ニコル少年は、ベニチオ・デル・トロと交わした約束どおりに、宿願を果たせるだろうか。騙されたり、挫けたり、儚んだりして、結局、残念な大人の仲間入りをしてしまわないだろうか。
きっと、そんなことは分かっていても、一縷の望みをかけるのだ。それが未来に託せる唯一のことだから。
一周回ってしまったかのようなティム・ロビンス(そんなの多いなこの人)の怪演や、ずっと自分を抑えていた通訳が、最後に国連軍に吐き捨てる本音、オルガ・キュリレンコが見せる女の執念の怖さなど、脇を固める俳優陣の軽妙かつニュアンスたっぷりの芝居が、この作品をワンランクもツーランクも上げている。
アメリカ大統領選の決着がほぼついた日に、隣人が突然敵になることの怖さと愚かさや、外部から干渉する者たちの身勝手で無責任な姿を重ねながら鑑賞した。
どんな不愉快で理不尽なことがあっても、最後はそれなりに丸く収まるもんだよ、と皮肉たっぷりに、でも温かな目線で包むような製作者に優しく肩を叩かれたような映画だった。
Amazon primeで偶然見つけて、なんとなく鑑賞したのだが、これは思わぬ拾い物をした。