「期待感」マスカレード・ホテル U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
期待感
まさかのオチではあった。
いや、ある意味巧妙なトリックとでも言おうか…大胆不適なのである。
物語の筐体としての「ホテル」の設定は実に秀逸で怪しさを撒き散らす人物をいくらでも投入できる。
その不穏分子を1つ1つ潰していく感じで物語は進む。
何せ犯人像が全く絞れてないという背景があり、その後、この一連の犯行には関連性が全くないとの結論に至る。
つまりは動機をひた隠す犯人の可能性は全員にあるという訳だ。
警察組織の人間でもあり得るし、ホテルの従業員でもあり得る。
勿論、曲者な「お客様」達はなおの事だ。
これに輪をかけて面倒なのが、主役が執着してる犯人は別件ってとこだ。
全くの別件ではなく、この一連の犯行の内の1つではあるのだが。
観客としては妙な多重構造を突きつけられる。
主役の目線が突発的にあらぬ方向を指し示すのだ。いや、勿論それだってミスリードの1つではあるのだが。
ホテルという豪華な舞台に、魅惑的なカメラワーク、それらに全く引けをとらない俳優陣のおかげで滑り出しは至極好調。
それどころか「オリエント急行殺人事件」のような匂いを感じてた。
持続していく期待感に煽られ放しだった。
そして今回のバディは実に心地が良くて小気味が良い。
対照的で反発し合っていた2人が打ち解けていく様は微笑ましいのである。
刑事である新田の洞察力は芯を外さないし、それに反発しつつも信念を曲げない山岸の健気さも可愛いらしい。
今回の木村氏は最後のワンカット以外は大好きだなぁ…また新田を演ってくんないかなあ。
ここからは、本作品…というか、本映像作品随一の心理トリック「犯人」についての感想だ。
率直に言うと、してやられた、のである。
俺はてっきりカメオ出演だと思っていたのだ。
丁寧な特殊メイクといい、登場のタイミングといい、キャスト自体の経歴といい。
俺は話題性作りの友情出演枠だと思い込んでいたのだ。
あからさまに怪しいんだもの!
初めは誰だか分からなかった。ん?と思ったのは声で…ひょっとして松たか子?と思ってからは、特殊メイクをしてる意味あいがとんと分からず「ああ、賑やかし枠なんだな」と切り捨てた。案の定、友情出演枠に明石家さんまとのコールもあって、発見出来なかったので2回目を見に来る観客もいるかと思う。
そういう役割だと思い込んだのだ。
ところが
話しが進んでいく内に、あの老婆は老婆であって「松たか子」ではなく登場人物の1人であった。
全くもって周到なキャスティングというか…裏の裏をかかれたというか…してやられたのだ!
そんなこんなで、俺はまんまとキャスティングを含めた演出の思惑にドップリハマり、「マスカレードホテル」という映画を存分に楽しませてもらえたのである。
小説という活字では到底出来ない心理トリックを勝手にでっち上げて、自らハマっていったのである。
振り返ってみれば、あからさまに怪しく…むしろ怪しさしかないにも関わらず主役「木村拓哉」との共演歴の方が強烈な印象で、その関係性が拭えきれなかった。
賭けに出たというか、見事というか…キャスティングが功を奏してた。
少なくとも俺には。
実際のところ、この犯人像に行き着く過程には「??」と思うとこも多いのだが、それは小説の中では理不尽な描写はないのだろうと思い、まぁいいか、とも思ってる。
ラストの仮面舞踏会はどうかとは思うのだけど、ホテルマンという仮面を取ったヒロインの表現としては悪くなく、またそれに見惚れてしまう主人公に「お前は中学生か?」とツッコミはするものの微笑ましい。
常に木村氏がやる笑い方をやりさえしなければ、俺的には大絶賛な役作りだったんだけどなあ…きっとご本人はアレが好きなのかもしれないし、アレを待ってるファンもいるんだろうなあ。
勝地x前田の役所には、偶然であるならばこんな劇的なキャスティングはなかろうと、ほくそ笑み、当のお2人は一体どんな会話をしつつあの現場にいたんだろうか?
そして、さんまさんは、どこにいたんだろう?