「性自認の揺らぎを自然に捉えた見事さ」恋とボルバキア ローチさんの映画レビュー(感想・評価)
性自認の揺らぎを自然に捉えた見事さ
LGBTという、性的マイノリティを指す用語が一般化し、生の多様な側面が社会にも浸透しつつあることは間違いない。
しかし、ゲイでもトランスジェンダーでもそうしたカテゴライズ自体に残酷な側面があることを忘れてはいけない。カテゴライズとは線を引くということに他ならない。線を引けば、かならずそこからあぶれる人々がいる。男/女の2つしかない時代にどちらにも入れない人々をLGBTというカテゴライズは吸収したろうが、今度はLGBTに入れる人は誰か、という話になる。
この映画はそうした線引きの誘惑を退けている。そもそも性自認はストレートであれ、少数志向なものであれ、固定的なものではなく曖昧で流動的なものだということを、この映画のカメラは実に自然に捉えている。
化粧男子の魅夜は店を畳んだ理由に、従業員たちの「トランスジェンダーはこうあるべきだ論」に疲れたからと吐露する。
男と女の2種類からLGBTが加わり6種類になったのではなく、一人ひとりが何にもカテゴライズされない「人間」であるべきだ。
この映画のカメラは静かに優しくそれを伝えてくれる。
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