「初心者だけど超楽しめた」劇場版 夏目友人帳 うつせみに結ぶ kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
初心者だけど超楽しめた
原作・TVアニメも未体験、タイトル以外は完全先行知識ゼロで挑みましたが、めちゃくちゃ良かったです。胸が震えました。サラっとしてますが、結構深い話だと思います。
物語の根幹には、孤独感とつながりがテーマとして流れているように感じました。
夏目は親戚の間を転々とした幼少期を送ったためつながりが作れなかった過去があります。物語の中心となる妖怪も、夏目同様さすらう運命のために誰ともつながれなかった。それは夏目の祖母・レイコも同様です。妖怪が見えるため人の世に馴染めず、『友人帳』を作ったくらいですから。
このように、つながれなかった人たちの悲しみが本作の中核に存在していると考えます。
しかし、物語のはじめから主人公夏目はすでにつながれており、悲しみは過去のものになっています。そのため、夏目は悲しみを癒す側の存在であり、言ってしまえば本作は『ブラックジャック』的な構造を持っているように感じました。
友人帳に書かれている名前を返すと言う行為自体が、縛られた妖怪たちを解放し、その自主性に任せることであり、セラピューティックな行いですね。妖怪も癒されますが、祖母の孤独な魂も少しずつ癒されて行くようにも感じます。
孤独というか孤立した人は、自分のために何かしてくれる人が存在しません。生前、レイコは誰かとつながりたかった。妖怪たちとつながろうとしたが、それは『勝負に勝ったら友人帳に名前を書く』という、対等ではない歪な関係だった。だからレイコは妖怪ともつながれなかった。
夏目はレイコの遺した問題の解決に取り組んでいるわけですが、それはレイコのために行動しているとも言えます。それが、亡き祖母の魂の解放にもつながり、夏目自身の魂の深化にもつながっているように感じます。
また、物語の舞台が森と街が共存しており、物の怪との物語を紡ぐことにはピッタリなロケーションだなと痛感しています。土着している妖怪たちが楽しそうに暮らしているのもいい。幸せの条件のひとつに、根付いてつながる、ってのがあるなぁとしみじみ思います。
さすがに映画では、豊かな登場人物たちの背景まではわかりません。しかし、それで本作の魅力が損なわれてはいないと考えています。正直、原作を読んだりTVシリーズを観ていないとちょっとわからないことも多々ありました。とはいえ、それらはあくまでも本作においては枝葉的なもの。それで物語の本質を楽しめなくなることなどはまるでなかったです。
夏目にとっての兄貴分っぽいイケメン野郎・名取は、なんともカッコいいキャラで、釣りキチ三平における鮎川魚紳的なポジションなのかな〜と想像。お気に入りのキャラです。微妙に夏目と価値観が違ったりしており、なかなかコクのあるキャラっぽいですね。田沼くんのサイドキック感も良かった。
ただ、タキさんや笹田さんが本当に脇役っぽいのが残念。美少女キャラがひとりくらい夏目のサイドキックとして活躍してほしいなぁ、なんて思ったりしました。
このように、本作いや本シリーズはとても素敵な物語だな、としみじみと実感した次第です。
本作を鑑賞した後、私はすっかり『夏目友人帳』のファンになりましたよ。TVシリーズも少しずつ手を出していこうと考えています。